top of page

トラック運送業の歩合給制度と給与設計

​目次

残業代抑制策としての歩合給制度の分析

残業代抑制策としての「歩合給制度」の分析

​​残業代リスクを軽減する方策として、歩合給制度、特に固定給のない「完全歩合給制度」が注目されています。その最大の理由は、割増賃金の計算方法が固定給制と大きく異なる点です。

歩合給制度の効用と法的根拠

最大のメリットは、割増賃金の抑制効果です

歩合給制度では、割増賃金の計算式が固定給制と比べて使用者側に有利な構造となっています。

固定給制

  • 時間単価の計算:固定給 ÷ 月平均所定労働時間

  • 割増率:1.25以上

  • 計算式(時間外):時間単価 × 1.25 × 時間外労働時間

歩合給制

  • 時間単価の計算:歩合給 ÷ その月の総労働時間

  • 割増率:0.25以上

  • 計算式(時間外):時間単価 × 0.25 × 時間外労働時間

​▶抑制効果のメカニズム

分母の違いによる

歩合給制では、時間単価を算出する際の分母に時間外労働時間を含む「総労働時間」を用いるため、残業すればするほど時間単価が低くなります。

割増率の違いによる

歩合給には時間外労働による成果(1.0部分)が既に賃金総額に含まれていると解釈されるため、加算すべき割増率は0.25で足りるとされています(昭和23年基収3052号他)。

具体例による比較

条件:月給30万円、所定労働170時間、時間外労働80時間

 

固定給制の場合

  • 時間単価:300,000円 ÷ 170時間 = 1,765円

  • 残業代:1,765円 × 1.25 × 80時間 = 176,500円

 

歩合給制の場合

  • 時間単価: 300,000円 ÷ (170時間 + 80時間) = 1,200円

  • 残業代:1,200円 × 0.25 × 80時間 = 24,000円

完全歩合給制度の適法性

完全歩合給制度の導入を巡ってはいくつかの誤解が存在しますが、法的には一定の要件を満たせば適法です。

「完全歩合給は違法」という誤解

完全歩合給制を直接禁止する法令はありません。むしろ労働基準法第27条(出来高払制の保障給)は、制度の存在を前提として「保障給」について規定しています。

「最低賃金分の基本給が必要」という誤解

歩合給を含めた賃金総額が、労働時間に対して最低賃金額を上回っていれば、別途固定給を支払う必要はありません。

適法性のための要件

「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」とされています。この保障給を定めない場合、歩合給制度自体が無効と判断されるリスクがあります。保障額の目安として、実務上は、「休業手当の規定(平均賃金の6割)」を参考に、平均賃金の6割程度を保障額とすることが無難とされているようです。

サカイ引越センター事件(東京高裁R6.5.15)が示唆すること

 

サカイ引越センター事件で東京高裁が示した判断も非常に重要だと考えられます。ドライバーの労働給付の成果とは、作業量や運転距離とされ、売上額は必ずしも作業量等と一致しないこと等から、売上給は、ドライバーの成果と連動するものではなく、出来高払給とはいえない、との判断が示されました。出来高払制というためには、賃金と作業量または運転距離との間の強い相関関係が求められています。確定判決すれば、多額の残業代支払いが発生する可能性があります。

歩合給制度の見直しが必要

歩合給制度、特に完全歩合給制度は、理論上、運送業の残業代問題を緩和する強力な手段となり得ます。しかし、近年の司法判断は形式的な制度設計を許さず、労働基準法の趣旨に沿った実質的な労働者保護を重視する傾向が鮮明です。熊本総合運輸事件判決などが示すように、通常の賃金部分を圧縮して名目上割増賃金とするような手法は明確に否定されており、安易な制度導入は労働条件の不利益変更問題で紛争を招いたり、制度自体が無効と判断されたりして、かえって巨額の未払残業代請求を誘発するリスクが高くなります。「明確区分性」「対価性」「成果」についての見直しは必要であるといえます。

歩合給制度の効用と法的根拠
完全歩合給制度の適法性
適法性のための要件
抑制効果のメカニズム
サカイ引越センター事件が示唆すること
具体例による比較
歩合給制度の見直しが必要

 

▶まとめ

  • 完全歩合給制度そのものは違法ではありませんが、「保障給」(目安:平均賃金の6割程度)を定めないと、制度自体が無効と判断されるリスクがあります。

  • サカイ引越センター事件をはじめ、近年の司法判断は形式的な制度設計を許さず、実質的な労働者保護を重視する傾向が鮮明です。

  • 安易な導入は、かえって多額の未払残業代請求を招くリスクがあります。「明確区分性」「対価性」「成果」の観点から、専門家によるチェックをおすすめします。

給与制度改定もご支援いたします

​給与制度改定もご支援いたします

支援内容

支援内容

  • ​歩合給から固定給への移行

  • 一部歩合制度の導入

  • ​デジタコ兼勤怠データを利用した時間管理と給与制度への適用

モデルケースで見る、弊所の進め方

モデルケースで見る、弊所の進め方

D社(中距離ルート配送・ドライバー30名規模、仮想モデル)を例に

STEP1|最初のご相談

「歩合給の設計が古いまま」「未払い残業代が心配」「そろそろ制度を見直したいが、何から手をつければいいか分からない」——D社のご相談は、こうした言葉から始まります。まずは現在の給与制度の成り立ちと、経営者様が感じている不安・課題を伺うところから始めます。

 

STEP2|現状把握(制度と実態の突合)

 

現在の歩合給の計算方法、賃金規程の記載内容を確認するとともに、デジタコ・勤怠データと実際の支給額を突き合わせます。「保障給」が定められているか、「明確区分性」「対価性」の要件を満たしているかを、この段階で点検します。

 

STEP3|制度設計案の検討

 

現状把握の結果をもとに、歩合給から固定給への全面移行、一部歩合制度の導入、保障給の見直しなど、複数の選択肢を比較検討します。売上・利益への影響試算もあわせて行い、経営として無理のない設計を目指します。

 

STEP4|制度改定と運用開始

 

新しい制度は、就業規則・賃金規程の改定と、労働条件の不利益変更に該当する場合の手続き(周知、同意取得等)を経て導入します。導入後も、運用状況を確認しながら必要な調整を行います。

 

※これは進め方をイメージしていただくための一例です。実際のご相談内容やご状況は事業者様ごとに異なりますので、まずは現状をお聞かせいただくところから始めます。

手取り額から額面給与を試算する『手取り・額面逆算ツール』はこちら

求人票や内定通知で「手取り額はいくらになりますか」と聞かれる場面は多いはずです。額面から手取りを計算するのは簡単でも、逆に「手取り◯円で提示したい」場合の額面計算は、社会保険料や源泉所得税がからむため意外と煩雑です。

このツールは、希望する手取り額を入力するだけで、都道府県別の協会けんぽ保険料率・雇用保険料・源泉所得税を踏まえた支給額(額面)を自動で逆算します。求人票の条件提示や、採用面談・賃上げ交渉時の説明づくりにご活用いただけます。

まずはお話をお聞かせください(給与制度について)

​まずはお話をお聞かせください

「未払残業代が心配」「不安定な歩合制度から安定した固定給制度へ移行したい」——まずは30分、無料でお話をお聞かせください。

bottom of page