今鶴実践社労士事務所|東京都中央区
介護事業の処遇改善加算と人事設計
目次
処遇改善加算を通じた「定着に効かせる人事設計」
1.月額の基本給・決まって支払う手当に組み込む(一時金にしない)
月額賃金改善要件は加算Ⅳ見込額の1/2以上を基本給または毎月固定で支払う手当に充てることを求めています。賞与や一時金より、毎月の固定給に組み込む方が「来月も上がっている」という将来の見通しが持て、定着への動機づけ効果が強くなります。
2.経験・技能のある介護職員へ重点配分する
令和6年度改定で旧・特定処遇改善加算の細かい配分ルールは廃止され、事業所の裁量による柔軟配分が認められました。ただし「介護職員、特に経験・技能のある介護職員への重点配分を基本とする」という方針自体は維持されています(2026年6月期中改定で介護職員以外への柔軟な配分も認められるようになりましたが、基本は介護職員への重点配分です)。ここが設計の勘所で、リーダー級・古参職員はケアの質と新人指導を支える要であり、ここが抜けると新人の早期離職も連鎖しやすくなります。裁量が広がった分、事務所側で「誰を経験・技能者とするか」の基準を就業規則・賃金規程に明文化しておくことが重要です。
3.キャリアパス要件と連動させ、昇給の"仕組み"を見せる
資格・経験年数・職責に応じた昇給ルールを整備するキャリアパス要件と組み合わせることで、「今回いくら上がったか」だけでなく「この先どう上がっていくか」を職員に示せます。定着に効くのは金額そのものより、この先の見通しが持てるかどうかです。
4.配分理由を職員に説明する(見える化)
加算の趣旨・配分基準を職員に周知することが職場環境等要件の一部として位置づけられています。配分に差をつける以上、その基準を対話的に共有し「公正な配分だ」という共通認識を職場内につくるプロセス自体が、不満由来の離職を防ぎます。逆に、基準を示さず一律配分・書類対応だけで済ませると、「もらって当然」という受け止め方になり、動機づけ効果が薄れます。
5.職場環境等要件を実質的に運用する
ICT導入による記録業務の負担軽減、多職種連携、研修機会の確保など、賃金以外の環境改善も要件に含まれています。書類上の体裁を整えるだけでなく実際に運用することで、賃金改善単体より高い定着効果が期待できます。
▶処遇改善加算後の給与費比率、業界と比べてどうですか
処遇改善加算による賃上げは、定着に効かせる設計で運用することが重要だと述べてきました。ただし賃上げは同時に、給与費比率(介護事業費用に占める人件費の割合)を押し上げます。加算を積極的に活用した結果、給与費比率が業界平均を大きく超え、経営を圧迫しているケースも見受けられます。
厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果」(令和5年度・令和6年度決算、全国8,099施設・事業所の集計)によれば、給与費比率はサービス種類によって大きく異なります。居宅介護支援は76.2%、訪問看護は70.1%と人件費依存度が高い一方、特定施設入居者生活介護は43.6%にとどまります(注)。この差は、サービスごとの収益構造そのものの違いによるものです。
そこで、決算書の金額を入力するだけで、収支差率・給与費比率・減価償却費比率・委託費比率を自動計算し、業界平均(全国・地域区分別)と即座に比較できる「経営ベンチマーク診断」を公開します。加算後の自施設の数字が、業界の中でどの位置にあるかをご確認ください。
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サービス種類(23区分)・地域区分(1級地〜7級地・その他)を選択
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決算書の実額(収益・費用・給与費・減価償却費・委託費)を入力するだけで、比率計算は不要
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業界平均との差を自動診断し、収益改善の着眼点をコメントで提示
注:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果」(令和7年11月公表)より。特定施設入居者生活介護等は保険外の利用料(家賃等)の比重が大きく、給与費比率を他サービスと単純比較できない点にご留意ください。地域区分別データは有効回答数僅少の区分を含むため、参考値としてご覧ください。
処遇改善加算を起点とした役割等級制度導入
▶2026年4月、経過措置が終わりました
介護職員等処遇改善加算のキャリアパス要件Ⅰ・Ⅱは、令和8年4月の完全施行をもって、すべての加算区分で必須化されます。一番下の加算区分(処遇改善加算Ⅳ)を取得している事業所であっても、キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱへの対応は避けて通れません。
▶キャリアパス要件Ⅰが求めているもの
要件Ⅰは、次の3点をすべて満たすことを求めています。
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介護職員の職位・職責・職務内容等に応じた任用要件(賃金に関するものを含む)を定めていること
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1に掲げる職位・職責・職務内容等に応じた賃金体系を定めていること
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1・2の内容について就業規則等の明確な根拠規程を書面で整備し、全職員に周知していること
(出典:介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和7年度分)-老発0207第5号)
▶「役割等級制度」という選択肢
任用要件と賃金体系を紐づける仕組みとして、弊所では「役割等級制度」を軸にご提案しています。個人の能力の 高さを基準にする職能資格制度と異なり、「組織から期待される役割の大きさ」を基準に等級を設計するため、経営戦略の変化に応じて役割そのものを見直しやすいという特徴があります。
▶環境分析から役割へ、という設計プロセス
役割等級制度は、キャリアパス要件を満たすためだけの仕組みにはとどまりません。PEST分析・5F(ファイブフォース)分析で外部環境を、SWOT分析で自事業所の強み・弱みを把握し、そこから抽出した経営課題を等級ごとの役割・責任に落とし込むことで、処遇改善加算への対応を経営戦略そのものと連動させることができます。
▶役割等級表の例(訪問介護事業所を想定)
▶導入までの標準的な流れ
以下は令和6年改定についてのコンテンツです
令和8年期中改定は令和6年改定を踏まえたものとなっています。
▶令和6年4月適用 令和6年度介護報酬改定
人口構造や社会経済状況の変化を踏まえ、「地域包括ケアシステムの深化・推進」「自立支援・重度化防止に向けた対応」「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」「制度の安定性・持続可能性の確保」を基本的な視点として、介護報酬改定が実施されました。主な改定を順次あげていきます。

訪問介護における「特定事業所加算」の見直し
訪問介護における特定事業所加算について、中山間地域等における継続的なサービス提供や看取り期の利用者な ど重度者へのサービス提供を行っている事業所を適切に評価する観点等から見直しが行われました。
・特定事業所加算Ⅰ 20%
・特定事業所加算Ⅱ 10%
・特定事業所加算Ⅲ 10%
・特定事業所加算Ⅳ 3%
・特定事業所加算Ⅴ 3%
厚生労働省資料「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」より

新加算「生産性向上推進体制加算」
「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」は介護人材確保への取り組みです。居住系,施設系サービスに対して「生産性向上推進体制加算」が新設されました。
・生産性向上推進体制加算Ⅰ 100単位 / 月
・生産性向上推進体制加算Ⅱ 10単位 / 月
厚生労働省資料「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」より

「同一建物減算」の見直し
訪問介護において、現行の同一建物減算に、「前6月間に提供したサービス利用者総数のうち、事業所と同一敷地内又は隣接敷地内の建物に居住する者が90%以上の場合、12%が減算される」という項目が追加されます。
厚生労働省資料「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」より
▶令和6年度介護報酬改定と改定率
介護保険制度は3年度に1度、介護報酬改定が行われます。令和6年度はその改定の年にあたり、改定率はプラス1.59%で決定しました。このうち0.98%は介護職員の処遇改善に充てられるため、実質的な改定は0.61%となっています。前回の令和3年度報酬改定はプラス0.70%だったので、全体ではプラス0.89%の伸びですが、実質的には0.09%のマイナス改定でした。
▶処遇改善加算の一本化
「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」の3本立てだった処遇改善加算が令和6年6月に「介護職員等処遇改善加算」へ一本化されることが令和6年度報酬改定の目玉の一つになっています。令和6年度の加算金の一部を令和7年度に繰り越すことが認められ、さらに処遇改善加算金が「賃上げ促進税制」に適用できるとする法改正によって税額控除された金額を原資として令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップを目標としています。
▶令和6年6月適用 新処遇改善加算
介護職員の人材確保を更に推し進め、介護現場で働く方々にとって、令和6年度に 2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップへとつながるよう、令和6年6月以降、 処遇改善に係る加算の一本化と、加算率の引上げが行われました。 新加算の算定要件は、①キャリアパス要件、②月額賃金改善要件、③職場環境等 要件、の3つです。令和6年度末までは経過措置期間とされており、令和7年度以降の新加算の完全施行までに、要件を満たすことが必要になります。


厚生労働省資料「制度概要」より