今鶴実践社労士事務所|東京都中央区

2024年問題は続いています
はじめまして
今鶴実践社労士事務所と申します。
弊所は主に、建設業、道路貨物運送業、介護福祉事業、IT企業等の社会基盤となる事業の人事労務支援を行っている社会保険労務士事務所です。
2024 年問題の進捗
残業時間の上限規制、改正改善基準告示が各企業様の36 協定の始期から順次適用開始となります。 2024年問題の課題解決の進捗状況はいかがでしょうか。 2024年問題は一般的に「輸送能力の不足」とされていますが、道路貨物運送業の現場の 2024年問題の課題は、 もう少し解像度を上げて考えなくてはなりません。
トップマネジメントの「役割」
自社にとって2024年問題とは何か。自社における問題を特定して課題を設定し、改善策を策定するという、重要な役割を担っています。
2024年問題の認識を深めるとともに、将来の自社の展望を明確にし、従業員をはじめとするステークホルダーへ、ナラティブアプローチを行いましょう。自社で立案した戦略について、チームを活用した統合的な改善が実行できるように、組織全体に推進していくことが求められます。
残業上限規制への対応
他業種では36協定の特別条項で、残業の上限が年 720 時間とされているところ、道路貨物運送事業は、2024 年 4 月から、年 960 時間の残業の上限時間が適用開始となりました。今後ますます時間管理が重要になります。
稼働時間減による売り上げ減少への対応
稼働時間減による売り上げ減少への対応は最も重要な課題と言えます。稼働時間は減少しても、現状に近い売り上げを上げなければなりません。つまり、売上高÷稼働時間 を最大限向上させるという生産性の向上が課題となります。これには、IT技術を活用したシステムの導入が解決の糸口となり得ます。例えば、「トラック受付予約システム」の導入と活用,製造・倉庫・運送・販売の物流業界全体で取り組む「物流BMS」は効果が高いと考えられます。そのほか生産性を向上させる手段としては「一貫パレチゼーション」や「スワップボディ車」導入による荷役作業時間の短縮、「高速道路・ETC2.0」の活用や「ダブル連結トラック」導入による高速輸送・大量輸送化です。しかし、これらはいずれも自社のみで導入できるものではありません。関係者が一体となった対応が必要です。
改正改善基準告示への対応
昭和 42 年の「29 通達」、昭和 54 年の「27 通達」、平成 1 年の「改善基準告示」を経て、2024 年 4 月から、 「改正改善基準告示」が適用開始となりました。デジタコ導入済みの企業様は多いと思われますが、残業上限規制と あわせて、デジタコデータを活かし、自動車運転者の「拘束時間」「休息期間」「運転時間」の管理と、休憩と待機の区別をしっかりして「残業時間」の把握に努めることが重要です。
・2024/5/26 改善基準告示はなぜ改正されたのか?①
・2024/5/30 改善基準告示はなぜ改正されたのか?②
・2024/6/9 改善基準告示はなぜ改正されたのか?③
ドライバーの労働時間管理
ドライバーの労働時間は「稼働時間」の多くを占めるものですので、この労働時間を管理することは2024年問題の対応策として大変重要です。ドライバーの労働時間を有効活用するためには、IT技術を活用した稼働時間の管理が不可欠です。例えば、GPSとスマートフォン・タブレットを使用した勤怠システムの導入で、拘束時間・休憩時間・連続運転時間・休息時間等の管理が容易になります。また、勤務時間の考え方では「待機時間」と「休憩時間」の切り分けは非常に重要ですので、研修の開催等で認識の統一を図ることも対策のひとつに考えられます。
運賃値上げ交渉
公正取引委員会が令和 5 年に行った特別調査では、労務費、燃料費等のコストの転嫁が道路貨物運送事業においては進んでいないことが判明しました。特に労務費の転嫁が進んでいません。このような状況下では、他業種とくらべて低いとされるドライバーの賃上げも思うように進まず、転職を選ぶ者も出てきます。価格転嫁と価格交渉、運賃値上げと賃上げは道路貨物運送事業にとって、大変重要な課題です。
・2023/11/29「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が公表されました。
残業時間減によるドライバーの給与減への対応
残業時間減によるドライバーの給与減への対応も重要です。給与減によりドライバーが退職することのないように、給与制度の見直しが必要になるでしょう。これには売り上げ減少への対応策としての「生産性の向上」があって実現が可能となるものです。同時進行で両輪のような推進が必要です。
荷主への協力要請
2024年問題の課題としては、荷主への協力要請も不可欠です。適正な運賃での取引、荷積み荷下ろし時間の削減のための施策など、トップマネジメントには、荷主との連携を図るために、自らが行動することが求められます。
残業上限規制等の対応はこれから
「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」が 2024/4/11 に衆議院で、2024/4/25 に参議院で可決 しました。荷主企業、物流事業者、一般消費者の協力体制のもと、商慣行の見直し,物流の効率化,荷主・消費者の行動変容についての抜本的・総合的な対策が求められています。特に、他業種と同様の残業上限年 720 時間 へのすみやかな移行が附帯決議されました。
・2024/4/25 貨物自動車運送事業法改正案が参議院でも可決しました。 附帯決議(衆議院4/10)(参議院4/25)

残業代抑制策としての「歩合給制度」の分析
残業代リスクを軽減する方策として、歩合給制度、特に固定給のない「完全歩合給制度」が注目されています。その最大の理由は、割増賃金の計算方法が固定給制と大きく異なる点です。
歩合給制度の効用と法的根拠
最大のメリットは、割増賃金の抑制効果です
歩合給制度では、割増賃金の計算式が固定給制と比べて使用者側に有利な構造となっています。
固定給制
時間単価の計算:固定給 ÷ 月平均所定労働時間
割増率:1.25以上
計算式(時間外):時間単価 × 1.25 × 時間外労働時間
歩合給制
時間単価の計算:歩合給 ÷ その月の総労働時間
割増率:0.25以上
計算式(時間外):時間単価 × 0.25 × 時間外労働時間
抑制効果のメカニズム
分母の違いによる
歩合給制では、時間単価を算出する際の分母に時間外労働時間を含む「総労働時間」を用いるため、残業すればするほど時間単価が低くなります。
割増率の違いによる
歩合給には時間外労働による成果(1.0部分)が既に賃金総額に含まれていると解釈されるため、加算すべき割増率は0.25で足りるとされています(昭和23年基収3052号他)。
具体例による比較
条件:月給30万円、所定労働170時間、時間外労働80時間
固定給制の場合
・時間単価:300,000円 ÷ 170時間 = 1,765円
・残業代:1,765円 × 1.25 × 80時間 = 176,500円
歩合給制の場合
時間単価: 300,000円 ÷ (170時間 + 80時間) = 1,200円
残業代:1,200円 × 0.25 × 80時間 = 24,000円
完全歩合給制度の適法性
完全歩合給制度の導入を巡ってはいくつかの誤解が存在しますが、法的には一定の要件を満たせば適法です。
「完全歩合給は違法」という誤解
完全歩合給制を直接禁止する法令はありません。むしろ労働基準法第27条(出来高払制の保障給)は、制度の存在を前提として「保障給」について規定しています。
「最低賃金分の基本給が必要」という誤解
歩合給を含めた賃金総額が、労働時間に対して最低賃金額を上回っていれば、別途固定給を支払う必要はありません。
適法性のための要件
「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」とされています。この保障給を定めない場合、歩合給制度自体が無効と判断されるリスクがあります。保障額の目安として、実務上は、「休業手当の規定(平均賃金の6割)」を参考に、平均賃金の6割程度を保障額とすることが無難とされているようです。
サカイ引越センター事件(東京高裁R6.5.15)が示唆すること
サカイ引越センター事件で東京高裁が示した判断も非常に重要だと考えられます。ドライバーの労働給付の成果とは、作業量や運転距離とされ、売上額は必ずしも作業量等と一致しないこと等から、売上給は、ドライバーの成果と連動するものではなく、出来高払給とはいえない、との判断が示されました。出来高払制というためには、賃金と作業量または運転距離との間の強い相関関係が求められています。確定判決すれば、多額の残業代支払いが発生する可能性があります。
歩合給制度の見直しが必要
歩合給制度、特に完全歩合給制度は、理論上、運送業の残業代問題を緩和する強力な手段となり得ます。しかし、近年の司法判断は形式的な制度設計を許さず、労働基準法の趣旨に沿った実質的な労働者保護を重視する傾向が鮮明です。熊本総合運輸事件判決などが示すように、通常の賃金部分を圧縮して名目上割増賃金とするような手法は明確に否定されており、安易な制度導入は労働条件の不利益変更問題で紛争を招いたり、制度自体が無効と判断されたりして、かえって巨額の未払残業代請求を誘発するリスクが高くなります。「明確区分性」「対価性」「成果」についての見直しは必要であるといえます。
▶2024年4月から順次適用 残業上限規制
自動車運転者は、特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となります。
一般の労働者と異なり、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6か月平均を80時間以内とする規制および時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6回までとする規制は適用されません。
なお、別途、運転時間や勤務間インターバルについて定めた「改善基準告示」を遵守する必要があります。
・建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制 (旧時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務) 厚生労働省
▶トラック関連行政のこれから
弊所ブログでご紹介しています。
・2025/11/28 下請法改正を歓迎するトラック運送業界が直面する実効性の課題
・2025/11/21 価格交渉はどう変わるか?改正下請法が定める「価格決定」と「支払い」の新ルール
・2025/11/18 「構造的な価格転嫁」の実現へ。令和8年施行「下請法・下請振興法」改正の全体像
・2024/6/17 フリーランス法のガイドラインが公表。フリーランス法特設サイトも公開されました。
・2024/5/31 全ト協が「自動車運送業分野トラック区分における特定技能外国人受け入れの手引き」を公表しました。
・2024/5/28 「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」が公表されました。
・2024/4/25 貨物自動車運送事業法改正案が参議院でも可決しました。 附帯決議(衆議院4/10)(参議院4/25)
・2024/4/19 「自動車運送業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」に係る運用要領 が公表されました。
・2024/3/29 「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針」等の変更が閣議決定しました。
・2023/11/29 「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が公表されました。
・2023/12/21 貨物軽自動車運送事業の自動車運転者に係る労働者性の判断事例が公表されました。
▶課題解決のための「知識資源」を培うセミナー・勉強会講師を承っています
・残業上限規制 / 改正改善基準告示の解説セミナー
・改善基準告示とデジタコ集計表のみかた解説セミナー
・2024 年問題とトラック運送業の課題を考えるセミナー
・価格交渉と賃上げを考えるセミナー
・「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」 の解説セミナー
・社会保険適用拡大の解説セミナー
・トラック運送業の課題解決のための組織開発セミナー
・トラック運送業の人事ポリシーを考えるワークショップ
・トラック運送業のこれからの人事制度を考えるセミナー
・トラック運送業の定着施策を考えるセミナー
・トラック運送業の就業規則を考えるセミナー
・運行管理者試験勉強会の講師 等
▶課題解決のご支援をしています
・労働生産性の向上
例えば、荷待時間・荷役時間の削減を目標に、時間管理の徹底を。
長距離輸送の改革を目標に、ツーマン運行によるワークシェアを。
・経営改善
例えば、賃金アップを目標に、運送原価計算と運賃設定を。
労働時間削減を目標に、労働時間の設定と管理を。管理スタッフの働き方の改革を。
ITを活用した運行管理の効率化を目標に、デジタコ等を活用した運行管理、労働時間管理を。
・人材の確保と育成
例えば、ドライバーの処遇改善の為に、給与体系の見直しを。週休2日制の導入を。年次有給休暇の取得促進を。
職場と会社の魅力度アップの為に、女性と高齢者が働きやすい職場のデザインを。


