top of page

介護職員等処遇改善加算から学ぶ、経営を変える視点

更新日:11月19日

介護事業所の多くの経営者や事務担当者にとって、「介護職員等処遇改善加算」は、複雑で手間のかかる作業と思われがちです。でも、この厄介な事務作業の中に、実は組織を改革して、成長を促すための重大なヒントが隠されています。


1. 「何ができるか」より「何をするか」を問う役割等級制度への転換

処遇改善加算を取得する上で必ず必要とされる「キャリアパス要件Ⅰ」をクリアする上で、組織は人事制度の根幹に関わる戦略的な選択を迫られます。それは、「職能資格制度」と「役割等級制度」のどちらを軸にするかという問題です。


職能資格制度

「何ができるか」を問い、個人の保有スキルや潜在能力を評価の基準とします。


役割等級制度

「何をするか」を問い、特定の役割における貢献度や成果を評価の基準とします。


処遇改善加算の要件を満たす上では、後者の「役割等級制度」がより適合性が高いと考えられます。というのも、この制度がまず企業の戦略的な目的・目標という「外」に目を向け、それを達成するために必要な役割を定義し、その役割に従業員を紐づけるからです。従業員個人の能力という「内」から始める職能資格制度とは、出発点が根本的に異なります。役割等級制度により、経営戦略と人事制度が完全に一体化します。


また、このモデルの最大の強みは、その柔軟性にあります。

「経営戦略が変われば役割も変わる」

変化の激しい現代の介護事業環境において、経営戦略の転換に応じて人事制度を柔軟に改変できる適応力は、組織が生き残るための不可欠な要素と言えます。


2. 「経営理念」から「給与体系」までを一本の線でつなぐ

処遇改善加算の要求は、単なる給与体系の整備にとどまりません。「職場環境要件」の中には、法人の「経営理念」を明確化することも含まれています。これは、組織の最上位概念から現場の業務、そして個人の処遇までを、一貫した論理で結びつけることを求めているのです。

コリンズ・ポラスが提唱したモデルによれば、優れた経営理念は二つの条件を満たす必要があります。一つは「明確さ」(組織内できちんと理解されていること)、もう一つは「共有」(組織の成員が賛同し、組織に浸透していること)です。逆に、これらの条件を満たせない組織は、経営戦略が曖昧になり、場当たり的で対症療法的な経営判断に終始せざるを得なくなります。

処遇改善加算への取り組みは、このプロセスを体系的に構築する絶好の機会となります。

経営理念 → 経営戦略 → 職位に応じた職責・職務内容

この流れが一本の線でつながったとき、従業員は自社の究極的な目的と、日々の具体的な業務、そして自身の給与との間に明確な関連性を見出すことができます。この納得感が、従業員のエンゲージメントと仕事への意味を深め、組織全体のパフォーマンスを向上させる原動力となるのです。


3. AIは「戦略立案パートナー」になり得る

処遇改善加算をきっかけとした経営改革において、話題のパートナーが登場します。それはChatGPTに代表される生成AIです。ここで言うAIの活用とは、単純作業の自動化ではありません。経営戦略の立案プロセスそのものを支援させる、まさに「戦略立案パートナー」としての活用です。

具体的には、以下のような体系的な分析プロセスをAIと共に行います。


外部環境分析

PEST分析(マクロ環境)とファイブフォース分析(ミクロの競争環境)を用いて、自社を取り巻く機会と脅威を洗い出します。


内部環境分析

SWOT分析を用いて、自社の強みと弱みを客観的に評価します。


統合分析と戦略立案

クロスSWOT分析によって外部環境と内部環境を掛け合わせ、取り組むべき経営課題を抽出し、具体的な経営戦略を策定します。


AIの支援によって導き出された経営戦略は、前述の「役割等級制度」における各職位の役割や責任を設計するための直接的なインプットとなります。そして最後に、策定した戦略とそれに基づく役割定義が、組織の根幹である「経営理念」と完全に整合しているかを確認する、とても重要なフィードバックループを実行する必要があります。


ただし、皆さんがよくご存じの通り、AIが出力したものを鵜呑みにすることはよくありません。AIはあくまで思考を加速させるための壁打ち相手であり、その出力を一つひとつ吟味し、自社の文脈に合わせて取捨選択・修正する洞察が不可欠であることは忘れないようにしましょう。


「介護職員等処遇改善加算」は、組織の理念を再確認し、事業戦略を練り直し、人事制度を最適化することで、より強く、より戦略的で、変化に強い組織を築き上げるための貴重な「触媒」です。

この機会を最大限に活かすことができるかどうかは、私たちの視点にかかっています。


弊所は主に、建設業、トラック運送業、介護福祉事業、IT事業等の社会基盤となる事業の人事労務支援を行っている社会保険労務士事務所です。

業務遂行には様々なツールを使って生産性の向上に努めていますが、電子申請・DX・AIと、経営環境の変化をお感じの企業様もどうぞお気軽にご相談ください。



今鶴実践社労士事務所

コメント


bottom of page