「構造的な価格転嫁」の実現へ。令和8年施行「下請法・下請振興法」改正の全体像
- 今鶴 孝

- 11月18日
- 読了時間: 3分
令和8年1月1日、日本の取引慣行に大きな影響を与える「下請法」と「下請振興法」の改正が施行されます。この法改正は、物価上昇を上回る賃上げの実現を目的とし、サプライチェーン全体でコスト増を適切に価格に転嫁させる「構造的な価格転嫁」の実現を目指すものです。「賃上げ」は「物価上昇」を上回ることができるのか、会計的にちょっと疑問ではあるのですが・・・。
1. 法改正の背景 なぜ今、改正が必要なのか
近年、労務費、原材料費、エネルギーコストが急激に上昇しています。中小企業が賃上げの原資を確保するためには、コスト上昇分を価格に適切に転嫁することが不可欠です。
しかし、実際には、協議に応じない一方的な価格決定など、受注者に負担を押し付ける商慣習が根強く残り、価格転嫁を阻害してきました。こうした課題を解決し、取引の適正化を一層推進するために、複数の政府方針に基づき、有識者の議論を経て今回の法改正が決定されました。
2. 改正の柱 「対等なパートナーシップ」への転換
今回の法改正は、単なる規制強化に留まらず、発注者と受注者がより対等なパートナーシップを築くことを促進する内容を含んでいます。
主な改正ポイント
• 協議なき一方的な価格決定の禁止:コスト上昇局面で、協議に応じず価格を据え置く行為などが新たに禁止されます。
• 運送委託の対象化:発荷主から元請運送事業者への運送委託が新たに対象となり、トラック業界の長年の課題に対応します。
• 手形払等の原則禁止:支払手段としての手形が原則禁止され、中小事業者の資金繰り負担を軽減します。
• 用語の刷新:取引当事者の呼称が変更され、「下請」という用語は「受託」に、「親事業者」は「委託事業者」に改められます。
特にトラック運送業界は、発荷主と運送事業者間の取引が法の対象となったこと、協議なき価格決定が禁止されたことを、「構造的な価格転嫁」実現に向けた重要な一歩として高く評価しています。
3. 下請振興法の強化 サプライチェーン全体の適正化
下請振興法(新名称:受託中小企業振興法)も同様に改正されます。
• 多段階取引の支援拡充:従来支援対象外だった、2つ以上の取引段階にある事業者が連携した振興事業計画も承認・支援できるようになります。
• 主務大臣の権限強化:指導・助言によっても状況が改善されない事業者に対し、より具体的な措置の実施を促す「勧奨」規定が新設され、制度の実効性が高まります。
トラック業界の価格転嫁率は全業種で最下位(36.1%)であり、この厳しい現状を打開するためには、法整備を「仏作って魂入れず」に終わらせず、いかに執行し浸透させるかという「実効性のフェーズ」に移行することが求められています。
次回、下請法改正の具体的な内容について、特にトラック運送業界に深く関わる規定に焦点を当てて詳しく解説してみようと思います。
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今鶴実践社労士事務所



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