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「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が公表されました。

執筆者の写真: 今鶴 孝今鶴 孝

更新日:2024年6月8日

令和5年11月29日、公正取引委員会から「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が公表されました。

令和5年の春季労使交渉の賃上げ率は約30年ぶりの高い伸びとなったものの、令和4年4月以降、現時点に至るまで、急激な物価上昇に対して賃金の上昇が追いついていない。この急激な物価上昇を乗り越え、持続的な構造的賃上げを実現するためには、特に我が国の雇用の7割を占める中小企業がその原資を確保できる取引環境を整備することが重要である。」

と論じて、政府はコスト上昇分を価格転嫁できるような施策を講じています。


労務費指針公表までのバックグラウンド


まず、さかのぼって、令和3年12月27日、内閣官房、消費者庁、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、公正取引委員会の連携で「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」が公表されました。


◆パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ:内閣官房


「中小企業等が賃上げの原資を確保できるよう、生産性向上に取り組む中小企業を事業再構築補助金等により支援していくことに併せて、取引事業者全体のパートナーシップにより、労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分を適切に転嫁」するための取り組みがここから始まりました。原油価格の高騰や円安の進展に伴い、エネルギーコストや原材料価格が高騰しているところ、その状況を放置すれば、中小企業等がコスト上昇分を取引先に転嫁できず、結果、賃上げができずに景気悪化につながるという懸念があるためです。


続いて令和4年1月26日に公正取引委員会は、下請代金法上の「買いたたき」の解釈の明確化を行いました。労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取引は、下請代金法上の「買いたたき」に該当するおそれがあることを明確化したのです。


「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正


旧運用基準では「買いたたき」を

「原料価格や労務費等のコストが大幅に上昇したため、下請事業者が単価引き上げを求めたにもかかわらず、一方的に従来通りに単価を据え置くこと。」

としていたところ、新運用基準は次のように「買いたたき」を規定しました。

「労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について,価格の交渉の場において明示的に協議することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。」
労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストが上昇したため,下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず,価格転嫁をしない理由を書面,電子メール等で下請事業者に回答することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと。」

また、令和4年2月16日には、独占禁止法の解釈基準である「よくある質問コーナー」を更新して、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」にについての解釈基準を次のように規定しました。


Q20 労務費,原材料費,エネルギーコストが上昇した場合において,その上昇分を取引価格に反映しないことは,独占禁止法上の優越的地位の濫用として問題となりますか。
A20 独占禁止法上,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商習慣に照らして不当に,取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定すること(第2条第9項第5号ハ)は,優越的地位の濫用として禁止されています。このため,取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,一方的に,著しく低い対価での取引を要請する場合には,優越的地位の濫用として問題となるおそれがあり,具体的には,
1 労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について,価格の交渉の場において明示的に協議することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと
2 労務費,原材料価格,エネルギーコスト等のコストが上昇したため,取引の相手方が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず,価格転嫁をしない理由を書面,電子メール等で取引の相手方に回答することなく,従来どおりに取引価格を据え置くこと
は,優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。この判断に当たっては,対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法のほか,他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか,取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか,通常の購入価格又は販売価格との乖離(かいり)の状況,取引の対象となる商品又は役務の需給関係等を勘案して総合的に判断することとなります。

そして、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に関して緊急調査が行われ、2回目の緊急調査(令和5年実施分)において、労務費の価格への転嫁が進んでいないことが判明しました。


◆独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査の結果について(令和5年12月27日)


そこで、今般、令和5年11月29日に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が策定、公表されることとなりました。


労務費指針の位置づけ


労務費指針は独禁法の運用基準と、下請法に関する運用基準の「優越的地位の濫用」「買いたたき」についての判断基準をベースにしており、これらの内容を具体的に示したものです。


労務費指針の全体像


労務費指針は次の12の行動を示しています。

6つの「発注者として採るべき行動 / 求められる行動」

4つの「受注者として採るべき行動 / 求められる行動」

2つの「発注者・受注者の双方が採るべき行動 / 求められる行動」


6つの「発注者として採るべき行動」とは


労務費指針は特別調査で得た「労務費の転嫁が進んでいない」という結果を踏まえて、発注者に6つの行動を求めており、この指針に沿わないような行為で「公正な競争を阻害するおそれ」がある場合には、独禁法、下請法に基づいて厳正に対処することが明記されています。

また、ここで注意すべきところは、「留意すべき点」との記載です。

この「留意すべき点」は、独禁法または下請法あるいは両方に抵触する恐れのある行為が記載されています。


  1. 経営トップが関与すること ① 労務費の上昇分について取引価格への転嫁を受け入れる取組方針を具体的に経営トップまで上げて決定すること ② 経営トップが同方針又はその要旨などを書面等の形に残る方法で社内外に示すこと ③ その後の取組状況を定期的に経営トップに報告し、必要に応じ、経営トップが更なる対応方針を示すこと

  2. 発注者から協議の場を設けること 受注者から労務費の上昇分に係る取引価格の引上げを求められていなくても、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回など定期的に労務費の転嫁について発注者から協議の場を設けること。 特に長年価格が据え置かれてきた取引や、スポット取引と称して長年同じ価格で更新されているような取引においては転嫁について協議が必要であることに留意が必要である。 留意すべき点 特別調査において、約30年前の取引開始以降、一度も価格改定がなされていない、実質的にはスポット取引とはいえない取引であるにもかかわらずスポット取引と認識している発注者から価格交渉の打診を受けたことがなく、取引開始以降、価格が据え置かれているなどの声が寄せられた。 労務費のコスト上昇分の価格転嫁につき、受注者からの要請の有無にかかわらず、明示的に協議することなく取引価格を長年据え置くことや実質的にはスポット取引とはいえない取引であるにもかかわらずスポット取引であることを理由に労務費の転嫁について明示的に協議することなく取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は下請代金法上の買いたたきとして問題となるおそれがあることに、発注者は留意が必要である

  3. 説明や根拠資料を求める場合には公表資料に基づくものとすること 留意すべき点 特別調査において、燃料費の上昇分の価格転嫁は認められたが、それ以外の労務費などについては交渉のテーブルについてくれなかった、労務費の上昇は外部要因ではないと判断されて取引価格の引上げの理由として認めてもらえなかった、価格交渉をしようとしても面談できる人に価格交渉の権限がない、「俺に言われても」などと言われて協議のテーブルについてもらえなかったなどの声が寄せられた。 受注者から協議の要請を受けた際に、労務費の上昇分の価格転嫁に関するものであるという理由で協議のテーブルにつかないことにより、明示的に協議することなく取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は下請代金法上の買いたたきとして問題となるおそれがあることに、発注者は留意が必要である。

  4. 直接の取引先である受注者がその先の取引先との取引価格を適正化すべき立場にいることを常に意識して、そのことを受注者からの要請額の妥当性の判断に反映させること 労務費をはじめとする価格転嫁に係る交渉においては、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁による適正な価格設定を行うため、直接の取引先である受注者がその先の取引先との取引価格を適正化すべき立場にいることを常に意識して、そのことを受注者からの要請額の妥当性の判断に反映させること。

  5. 受注者から労務費の上昇を理由とした価格転嫁を求められたら協議のテーブルにつくこと / 労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取扱いをしないこと 受注者から労務費の上昇を理由に取引価格の引上げを求められた場合には、協議のテーブルにつくこと。労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取扱いをしないこと。 留意すべき点 特別調査において、燃料費の上昇分の価格転嫁は認められたが、それ以外の労務費などについては交渉のテーブルについてくれなかった、労務費の上昇は外部要因ではないと判断されて取引価格の引上げの理由として認めてもらえなかった、価格交渉をしようとしても面談できる人に価格交渉の権限がない、「俺に言われても」などと言われて協議のテーブルについてもらえなかったなどの声が寄せられた。 受注者から協議の要請を受けた際に、労務費の上昇分の価格転嫁に関するものであるという理由で協議のテーブルにつかないことにより、明示的に協議することなく取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は下請代金法上の買いたたきとして問題となるおそれがあることに、発注者は留意が必要である。

  6. 必要に応じ労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を提案すること 受注者からの申入れの巧拙にかかわらず受注者と協議を行い、必要に応じ労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を提案すること。


価格転嫁は今がチャンス


年明けから数社の運送会社様の会議でこの労務費指針のお話をさせていただきましたが、この指針には「データ編」として、各種データを挙げています。

ひとつは業種による平均的な労務費率。



道路貨物運送は39.7%だそうです。


ならばですよ…

と労務費を運賃へ転嫁するプランをいくつかお話しをしたら、営業所長さんたち皆んなが「そうか…そんなふうにシンプルに考えていいんだ…?」という顔をなさっていました。


運送会社の価格交渉が進んでドライバーの賃金が上がっていくように、今後も様々な支援を続けていきます。

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