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​兼務役員の雇用保険加入

1. 役員は、原則として雇用保険に入りません

雇用保険に入るのは、会社に「雇用される労働者」です。

会社の役員は、会社と雇用契約ではなく委任契約を結んでいるため、原則として雇用保険の被保険者になりません。

 

  • 株式会社の取締役:原則として被保険者になりません。

  • 代表取締役:被保険者になりません。

  • 監査役:会社法で従業員との兼務が禁じられているため、被保険者になりません。名目だけ監査役で、実際は従業員として明確な雇用関係がある場合は例外です。

  • 合同会社・合名会社・合資会社の社員:取締役と同じく、原則として被保険者になりません。

  • NPO法人などの役員:雇用関係が明らかでない限り、被保険者になりません。
     

2. 兼務役員として加入できるのは、こんな場合です

取締役であっても、同時に部長・支店長・工場長など、従業員としての身分を持ち、報酬の支払いなどの面から見て労働者としての性格が強く、雇用関係があると認められる場合は、例外として被保険者になります(雇用保険業務取扱要領20351)。

これが「兼務役員」です。
​

▶ハローワークは、主に次の点を確認します

  • 代表権・業務執行権がないこと:会社を代表したり、業務の執行を決めたりする立場ではなく、ほかの役員の指揮命令を受けて働いているか。

  • 就業規則が適用されていること:始業・終業の時刻や休日など、ほかの従業員と同じルールで働いているか。特に有給休暇の取得をほかの従業員と同様にしていることは、労働者性の強さを示す資料になります。

  • 従業員としての賃金が支払われていること:役員報酬とは別に、従業員としての賃金が支払われ、賃金台帳・出勤簿に記録されているか。

  • 賃金と役員報酬の割合:業務取扱要領に「何対何なら可」という数字の基準はありません。実務では、従業員としての賃金が役員報酬を上回っていることが、労働者性の強さを示す一つの目安とされています(ハローワークの記入例も、役員報酬15万円・従業員賃金35万円の例です)。
     

3. 兼務役員雇用実態証明書の書き方

兼務役員を被保険者とするかどうかは、事業主が作成する「兼務役員雇用実態証明書」と添付書類で判断されます。

様式はハローワークのホームページから入手できます。

主な欄と、書くときのポイントは次のとおりです。

​欄

 

就業規則の適用状況

​

出勤義務

​

役員(委任)関係

​

 

従業員(雇用)関係

​

 

給与等

​

​

その他

 

​書くこと

全部適用/適用無し/一部適用

(適用除外の条項)

​

常勤/非常勤、勤務の拘束時間、週の所定労働時間

代表権・業務執行権の有無、役員名称、就任年月日、役員としての担当業務

役員就任前の職名、現在の職名、雇用年月日、従業員としての業務内容と指揮命令権者

役員報酬(月額・年俸)、従業員賃金(月額・年俸)、それぞれの賞与等の有無、決算で役員報酬・賃金給料として計上しているか

加入済みの社会保険、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿・雇用契約書の整備状況

​ポイント

「適用無し」では労働者性を示しにくい。一部適用なら除外している条項

(例:退職)を書く 

週20時間以上であることが、そもそもの加入要件

代表権・業務執行権が「有」だと、被保険者と認められにくい

誰の指揮命令を受けて働いているかを具体的に(例:専務取締役)

​

 

決算書の計上区分と一致していること

​

​

帳簿に「従業員として」記録されているか

​

証明書には「記載内容に変更が生じたら速やかに再提出する」「被保険者資格を失うべき状態になったら速やかに資格喪失届を出す」旨の誓約文が入っています。役員報酬や賃金の額、職名が変わったときは、出し直しが必要です。

​

4. 提出書類と提出方法

証明書には、次の書類の写しを添えます。ハローワークにより求められる範囲が異なることがあります。

​書類

​定款

​就任時の議事録(株主総会・取締役会)または登記事項証明書

​人事組織図

役員報酬規程など、報酬額の根拠

​労働者名簿

 

賃金台帳・出勤簿

​

就業規則・賃金規程

総勘定元帳

確認されること

代表権・業務執行権の有無(記載がなければ申立書を作成)

​就任日

​組織上の位置づけ

本人の役員報酬額(明記したものがなければ申立書)

​採用日など

役員就任時から3か月分〜申請時まで(さかのぼって加入する場合は、加入時からの全期間。6か月以上さかのぼる場合は遅延理由書も)

ない場合は雇用契約書(労働条件通知書)

役員報酬額と従業員賃金額が確認できないときなど

▶兼務役員雇用実態証明書の提出(兼務役員の手続き)と電子申請

兼務役員雇用実態証明書の提出は、電子申請ができる雇用保険の手続きに含まれていません。(厚生労働省「雇用保険関係手続き 電子申請のご案内」に掲載されている手続きの一覧による)

弊所では、資格取得届も含めて、証明書・添付書類とあわせて紙で、ハローワークの窓口または郵送で提出しています。
 

5. こんなときは、この手続き

​場面

 

兼務役員を新たに雇い入れた

​

従業員が取締役に就任し、引き続き従業員としても働く

 

従業員が取締役に就任し、従業員でなくなる(兼務役員に当たらない)

​

役員報酬と賃金の額や職名が変わった

兼務役員が代表取締役になった/業務執行権を持つようになった

​

兼務役員が退職した

​

​手続き

資格取得届+兼務役員雇用実態証明書+添付書類

​

兼務役員雇用実態証明書+添付書類を提出(被保険者資格は継続)

 

資格喪失届(登記事項証明書・役員会の議事録などの添付を求められることがある)

​

兼務役員雇用実態証明書を出し直す

 

資格喪失届

​

資格喪失届・離職証明書

​

​期限・注意

 3か月ほど働いた実績がそろってから、雇い入れた日にさかのぼって手続き

(※1)

就任後3か月ほどの実績がそろってから提出(※2)。資格喪失届は出さない

役員に就任した日に資格を失います(喪失日)。資格喪失届の「離職等年月日」欄には、就任日の前日を記入します。届出は、就任日の翌日から10日以内です

変更が生じたら速やかに

その事実のあった日に資格を失います(喪失日)。「離職等年月日」欄には、その前日を記入します

離職証明書の賃金欄には従業員としての賃金だけを書く(役員報酬は含めない)

※1 手続きの時期について:兼務役員の手続きでは、従業員として働いている実態を、賃金台帳・出勤簿・有給休暇の管理簿などで示す必要があります。ハローワークの案内でも、賃金台帳・出勤簿は「役員就任時から3か月分〜申請時まで」を求められています。そのため弊所では、兼務役員に該当してから3か月ほど実績がそろうのを待ち、4か月目に、当初の日付にさかのぼって手続きをしています。

 

※2 雇用保険業務取扱要領22751では、取締役などの役員になった場合は「雇用関係に中断がある」とされています。ただし、なお従業員としての地位を持ち、継続して被保険者資格を持つときは、この限りではありません。

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6. 雇用保険・労災保険・社会保険で、扱いが分かれます

​雇用保険

 

 

​役員は入るか

​​

​

保険料・給付の計算の基礎

​

 

 

手続き

​

​

​

​雇用保険

 

原則入らない。

兼務役員は例外的に入る

​

​

従業員としての賃金のみ

(役員報酬は含めない)

 

 

兼務役員雇用実態証明書が必要

​

​

​

​労災保険

原則対象外。業務執行権・代表権を持たない役員が、部長・工場長などとして賃金を受ける場合は、その限りで労働者として対象。役員としての業務は対象外

従業員としての賃金のみ

​

従業員として働く部分は、労働保険の年度更新で賃金を算入。役員としての業務まで補償を受けるには、会社が労働保険事務組合に事務を委託し、中小事業主等の特別加入をする必要がある

​健康保険・厚生年金保険

 

入る

(法人から労務の対償として報酬を受ける役員も被保険者)

​

役員報酬と賃金の合計

​

 

 

通常の資格取得・算定基礎届など

​

​

​

同じ一人の兼務役員でも、雇用保険と労災保険は「従業員としての賃金」だけ、社会保険は「報酬の全体」で考えます。

賃金台帳で役員報酬と賃金をはっきり分けておくことが、3つの制度すべての前提になります。

 

労災保険は特に注意が必要です。

年度更新で賃金部分を算入していても、それで守られるのは従業員として働いている間の災害だけです。役員として業務をしている間の災害は、通常の労災保険では補償されません。

​

役員の業務まで補償を受けるには、労働保険事務組合を通じた特別加入の手続きが必要です。

​

7. 賃金の取り扱いに関する重要な留意点

兼務役員の場合、賃金の取り扱いについて特に注意が必要です。

▶雇用保険の対象となる賃金

雇用保険料の算出や、雇用保険被保険者離職証明書に記載する賃金は、従業員の身分(雇用関係)に対して支払われる賃金のみが対象となります。

​

▶役員報酬の除外

役員報酬部分は、労働保険料の算定基礎とならないもの(賃金と解されないもの)として、賃金日額の算定基礎には含まれません。

​

▶賃金の明確化

賃金台帳等に、従業員としての賃金と役員報酬とを明確に区分しておく必要があります。

「兼務役員雇用実態証明書」には、役員報酬(月額/賞与)と、従業員(雇用)関係に基づく賃金(給料月額/日給/賞与)を記載する欄が設けられています。また、役員としての名称(例:「取締役」)と、従業員としての職名(例:「工場長」「営業部長」)の両方を記入する必要があります。​​​

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8. よくあるご質問

Q1 兼務役員雇用実態証明書は、電子申請できますか

A1 兼務役員雇用実態証明書の提出は、電子申請ができる雇用保険の手続きに含まれていません。弊所では、資格取得届も含めて、証明書・添付書類とあわせて紙で、ハローワークの窓口または郵送で提出しています。

 

Q2 取締役になると、雇用保険はどうなりますか

A2 従業員としての仕事を離れて役員だけになる場合は、役員に就任した日に雇用保険の資格を失い(喪失日)、資格喪失届を出します。資格喪失届の「離職等年月日」欄には、就任日の前日を記入します。届出は、就任日の翌日から10日以内です。部長などの従業員の身分を持ったまま就任し、労働者としての性格が強いと認められれば、兼務役員として加入を続けられます。この場合は兼務役員雇用実態証明書を提出します。

 

Q3 役員になって資格を失ったら、雇用保険被保険者証(被保険者番号)はどうなりますか

A3 資格を失っても、被保険者番号はなくなりません。将来、別の会社に雇われて再び雇用保険に入るときは、同じ番号を引き続き使います。被保険者証は大切に保管しておいてください。

Q4 役員になった後、失業給付は受けられますか

A4 役員として在任している間は、会社の仕事に就いている状態のため、失業給付は受けられません。役員を退任した後に受けられるかどうかは、それまでの被保険者期間や受給期間などの要件によります。個別の事情により異なりますので、ハローワークにご確認ください。(※兼務役員として雇用保険に加入していた方が離職した場合、失業給付の計算の基礎になるのは従業員としての賃金だけで、役員報酬は含まれません)

 

Q5 賃金と役員報酬の割合は、どのくらいなら認められますか

A5 業務取扱要領には、具体的な割合の基準はありません。「報酬の支払いなどの面から見て、労働者としての性格が強いこと」が求められ、就業規則の適用や出勤義務、指揮命令関係などと合わせて判断されます。実務では、従業員としての賃金が役員報酬を上回っていることが一つの目安とされています。

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Q6 代表者の家族が取締役になっている場合も、加入できますか
A6 取締役である以上、兼務役員に当たるかどうかで判断します。あわせて、実質的に代表者の個人事業と変わらない会社(株式の大部分を代表者とその親族が持ち、取締役会や株主総会がほとんど開かれていないなど)では、同居の親族は原則として被保険者になりません。加入するには、指揮命令に従っていること、就業の実態と賃金がほかの従業員と同じように管理されていることなどが求められます。

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  • 雇用保険法第4条(被保険者の定義)

  • 雇用保険に関する業務取扱要領(令和8年8月1日以降)20351(労働者性の判断を要する場合:取締役・代表取締役・監査役・持分会社の社員・同居の親族)、20601(役員就任時の資格喪失)、資格取得届の確認書類(株式会社等の取締役で従業員の身分も有する者)、資格喪失時の確認書類(登記事項証明書・役員会の議事録等)、22751(雇用関係の中断)

  • ハローワーク「兼務役員雇用実態証明書」様式・記入例、宮城労働局「『兼務役員雇用実態証明書』提出時必要書類」

  • 労災保険:昭和23年3月17日基発第461号(職員を兼ねる重役。「法人の所謂重役で業務執行権又は代表権を持たない者が、工場長、部長の職にあつて賃金を受ける場合は、その限りにおいて法第九条に規定する労働者である」。厚生労働省労働基準局「労働基準法における労働者性の関連通達(令和7年3月時点)」で原文確認)

  • 健康保険・厚生年金保険:昭和24年7月28日保発第74号(法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について。「法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させる」。厚生労働省法令等データベースで原文確認)

  • 法令の確認日:2026年9月25日

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