今鶴実践社労士事務所|東京都中央区
会社を一方向から見ない
――組織で何が起きているのかを知るために
「社員が思うように動いてくれない」
「管理職が育たない」
「何度言っても同じ問題が起きる」
「制度を変えたのに、現場の行動が変わらない」
会社を経営していると、こうした問題に出会うことがあります。
このとき、私たちはすぐに「何を変えればいいのか」を考えるのではなく、
「この会社では、いったい何が起きているのだろうか」
と考えるようにしています。
そのためには、会社を一方向から見ないことが大切です。
経営者から見える会社
まず、トップマネジメントの話を聞きます。
経営者は、会社をどう見ているのか。
何を問題だと感じているのか。
これから何を実現したいのか。
社員に何を期待しているのか。
経営者との対話では、単に「困っていること」を聞くだけではありません。
その会社を経営する中で、どのような経験をしてきたのか。
何を大切にしてきたのか。
何を「この会社では当たり前だ」と考えているのか。
そうしたことを聞いていきます。
経営者から見える会社には、その会社の経営者だからこそ見えているものがあります。
従業員から見える会社
しかし、経営者から見える会社が、そのまま従業員から見えている会社とは限りません。
そこで、従業員との懇談会などを通じて、現場の話を聞きます。
「実際には、どうなっていますか?」
「困ったとき、誰に相談しますか?」
「会社から言われていることと、現場で実際に行われていることに違いはありませんか?」
「この会社では、どうするのが普通だと思いますか?」
こうした対話から見えてくるものがあります。
たとえば経営者は、
「何かあったら、すぐに報告してほしい」
と思っている。
ところが従業員は、
「問題を報告すると、まず自分が怒られる」
と感じている。
どちらかが嘘をついているわけではありません。
同じ会社にいても、見えている世界が違うのです。
会社の外から見る
会社の中だけを見ていると、「会社の努力が足りない」という結論になってしまうことがあります。
しかし、会社を取り巻く環境そのものが変わっている場合もあります。
そこで、必要に応じてPEST分析や5フォース分析、SWOT分析などを使い、会社の外側も見ます。
政策はどう変わっているのか。
人口はどう変化しているのか。
競争環境はどうなっているのか。
顧客の行動は変わっていないか。
人材を取り巻く環境はどうなっているのか。
「以前はうまくいっていた方法が、なぜ今はうまくいかないのか」
という問いに対して、会社の内側だけではなく、外側から答えが見つかることがあります。
数字から見る
そして、感覚だけで会社を見ることもしません。
必要に応じて、公的統計などのデータを使って現状を確認します。
たとえば、
-
人口
-
労働力人口
-
年齢構成
-
求人・求職の状況
-
賃金
-
労働時間
-
離職
-
産業構造
-
地域の事業所数
などです。
「人が採れない」という問題があったとしても、
「採用活動をもっと頑張りましょう」
で終わらせるのではなく、
そもそも、その会社が置かれている労働市場はどうなっているのか。
を確認します。
数字を見ることで、これまで見えていなかったものが見えることがあります。
一つの情報だけでは、会社は分からない
経営者の話だけでも、従業員の話だけでも、データだけでも、会社の全体像は見えません。
だから、それぞれを重ねていきます。
経営者から見える会社。
従業員から見える会社。
会社の外から見える会社。
データから見える会社。
必要であれば、サーベイなどを使って、個別の対話だけでは分からない組織全体の傾向を見ることも考えます。
それぞれの情報を並べて、
「この会社では、何が起きているのか」
を考えます。
たとえば、こんなことがあります
経営者から、
「もっと社員に主体的に動いてほしい」
という話があったとします。
従業員と話してみると、
「自分で判断して動くと、後から怒られるので、指示を待つようにしています」
という話が出てくる。
さらに会社の過去を振り返ると、以前、社員が独断で判断して大きな問題になったことがあった。
その経験から、
「判断する前に上司に確認する」
ことが会社の中で安全な行動になっていたのかもしれません。
ここまで見て初めて、
「社員の主体性がない」
という最初の問題設定を見直すことができます。
問題は社員の能力ではなく、
主体的に動かないほうが安全な組織になっていること
なのかもしれません。
そこに「組織の癖」が見えてくる
私たちが「組織の癖」と呼んでいるのは、こうしたものです。
就業規則には書かれていない。
人事制度にも書かれていない。
経営理念にも書かれていない。
けれど、社員の行動には確かに影響している。
「問題は自分で処理する」
「社長に逆らわない」
「お客様の要求は断らない」
「忙しいときは現場が何とかする」
「失敗は報告しない」
そうした行動が長い時間をかけて繰り返されることで、
「この会社では、こうするものだ」という予測がつくられていきます。
私たちは、その繰り返しを見ることを大切にしています。
職場は「環世界の束」でもある
そして、ここから私たちは「環世界」という考え方につながっていきます。
同じ会社にいても、
経営者には経営者の世界があり、
管理職には管理職の世界があり、
現場社員には現場社員の世界があります。
同じ出来事でも、これまでの経験によって、その意味は変わります。
「任せてもらっている」と感じる人もいれば、
「放っておかれている」と感じる人もいる。
「報告してほしい」と言われて、
「相談していいんだ」と受け取る人もいれば、
「問題を起こすなということだ」と受け取る人もいる。
だから私たちは、
職場は、さまざまな環世界が重なり合った場所なのだ
と考えています。
だから、私たちは「何を変えるか」を最初から決めません
就業規則を変えたほうがいい会社もあります。
給与制度を変えたほうがいい会社もあります。
管理職との対話から始めたほうがいい会社もあります。
採用の方法を見直したほうがいい会社もあります。
何もしないほうがいい場合だってあるかもしれません。
大切なのは、最初から「就業規則を作る」「人事制度を変える」と決めることではありません。
まず、
この会社では、何が起きているのか。
を見る。
そして、
なぜ、それが起きているのか。
を考える。
そのうえで、
何を変える必要があるのか。
を考えます。
私たちが見ているもの
私たちは、社労士として法律や制度を扱います。
しかし、法律や制度だけを見て仕事をしているわけではありません。
経営者と話します。
従業員と話します。
会社の外部環境を見ます。
公的データを調べます。
必要に応じて、組織全体の傾向も見ます。
そして、それらを重ね合わせながら、
「この会社では、何が繰り返されているのか」
を考えます。
制度を変えることは、その先にあります。
制度は目的ではありません。
組織をより良く機能させるための、一つの手段です。
私たちは、会社を一方向から見ない。
それが、現在の私たちの仕事の進め方です。