今鶴実践社労士事務所
東京都中央区銀座
TEL:03-5050-4759
HOME > 事例紹介 > 荷待ち時間の15分についての、対話できる現場づくり
荷待ち時間の15分についての、対話できる現場づくり
──従業員約45名、地域の食品輸送を中心に担う運送会社での事例
制度を整えるだけでは、ドライバーの「どうせ変わらない」という空気は動きませんでした。声を届く形にすること、そして小さな改善を確実に積み重ねることから、少しずつ現場が変わっていったプロセスです。
▶1. きっかけ:定着しない、応募が来ない
以前からお付き合いのあった運送会社の社長から、「ドライバーが定着しない。求人を出しても応募が来ない」という相談を受けました。給与や労働時間の見直しはすでに進めていましたが、それだけでは状況が変わらないという実感が社長にはありました。
▶2. 現場に染みついていたもの
個別に話を聞いていくと、賃金や労働時間そのものより先に、「言っても変わらない」という諦めの方が根深いことが見えてきました。過去に何度か要望を出し、実現しなかった経験が積み重なっていた ためです。制度の中身を直す前に、まずこの空気に向き合う必要がありました。
▶3. 声を「届いたもの」にする
最初に行ったのは、ドライバー向けの匿名アンケートと個別ヒアリングです。荷待ち時間の実態を中心に、日々の運行で何にストレスを感じているかを集めました。結果は経営層に報告するだけでなく、「これだけの声が集まった」という事実をドライバー側にも戻しました。声を上げたことが確かに届いた、という経験を作ることが目的でした。
▶4. 感覚が、数字になった
集計してみると、1運行あたりの荷待ち時間は平均でかなりの時間に上り、拘束時間全体を押し上げている主要因であることがはっきりしました。それまで「なんとなく待たされている」という感覚だったものが、数字として経営層の前に置かれたことで、受け止め方が変わりました。
▶5. いきなり全部ではなく、1路線から
とはいえ、全荷主・全路線を一度に変えるのは現実的ではありません。まずは取引の大きい荷主1社・1路線に絞り、荷待ち時間の短縮を交渉する小さなトライアルから始めることにしました。目標は、1運行あたり10〜15分の短縮です。数字としては小さく見えても、日々その路線を走るドライバーにとっての体感は大きいはずだという見立てでした。
▶6. 小さいけれど、確かな変化
トライアルの結果、対象路線の荷待ち時間は短縮されました。数字としては地味な変化かもしれません。ですが、対象路線のドライバーからは「今回は本当に変わった」という反応があり、社内の空気に小さな変化が生まれました。大きな改革よりも、この「確かに変わった」という一つの事実の方が、次への足がかりになりました。
▶7. 対話の場を、制度として残す
トライアルと並行して、経営層とドライバー代表による意見交換会を定例で設けました。進行役は弊所が務め、不満をぶつけ合う場ではなく、課題を一つずつ解決していく場として運営しています。毎回、前回からの進捗を「先月の荷待ち平均が◯分減りました」といった数字と、現場のエピソードの両方で共有することを続けました。
▶8. 期待を煽らず、約束を守る
長く失望が積み重なった現場ほど、新しい取り組みにも警戒心が先に立ちます。ここで大きな期待を煽ってしまうと、実現できなかったときに反動が大きくなります。そのため、できると決めたことだけを約束し、それを確実に守ることを徹底しました。派手さはありませんが、この積み重ねが、対話の場そのものへの信頼につながっていきました。
▶9. 今も、続いている
荷待ち時間の短縮は、まだ全路線に広がったわけではありません。賃金制度や休暇のルールなど、次に取り組むべき課題も見えてきています。それでも、声を上げれば拾われる、という経験と、経営層とドライバーが定期的に顔を合わせて話す場は、この関わりの中で会社に残ったものです。
弊所が大切にしている視点
ドライバーの「どうせ言っても変わらない」という感覚は、その人がこれまでの経験を通じて作り上げてきた、その人なりの現実です。制度を一度に整えても、この感覚はすぐには動きません。動かすのは、声が確かに届いたという小さな経験と、それを裏切らずに積み重ねていく姿勢だと考えています。
大きな改革を一気に進めるより、超具体的で小さな改善を、約束どおりに実行し続けること。そして、経営層と現場が定期的に、中立の立場を挟んで話せる場を残しておくこと。派手ではありませんが、この積み重ねが、現場の環世界を少しずつ変えていくと考えています。