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確定拠出年金(企業型DC)の事業主掛金と給与計算
1. 企業型DCには、2つの形があります
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、会社が掛金(事業主掛金)を出し、従業員が自分で運用して、原則60歳以降に受け取る年金制度です。給与計算から見ると、次の2つの形に分かれます。
項目\制度
仕組み
従業員の選択
給与計算への影響
上乗せ型
今の給与はそのままで、
会社が事業主掛金を上乗せして出す
なし
小さい
選択制(いわゆる選択制DC)
基本給などを減額し、その分を新しい手当(例:生涯設計手当)として設ける。従業員は、その手当を事業主掛金としてDCに拠出するか、給与(前払金)として受け取るかを選ぶ
あり
大きい(このページの中心)
選択制DCは、言いかえれば「基本給の減額と、手当の新設」です。手当のうち掛金に回した分は税・社会保険料がかからない一方、給与計算・社会保険・規程のそれぞれで確かめることが増えます。
2. 事業主掛金は、制度ごとに扱いが分かれます
同じ一人の給与でも、事業主掛金を「入れる」制度と「入れない」制度があります。選択制DCの場合、前払金(給与として受け取る分)と事業主掛金(DCに拠出する分)で、次のように分かれます。
制度
所得税
社会保険(健康保険・厚生年金保険)
労働保険(労災保険・雇用保険)
労働基準法(割増賃金の基礎)
最低賃金
前払金(給与として受け取る分)
給与所得(課税)
報酬に含む
賃金に含む(いわゆる前払い退職金)
賃金
含む(理屈上)
事業主掛金(DCに拠出する分)
給与所得に含まれない
(所得税法施行令第64条第1項第4号)
報酬に含まない
賃金に含まない
(労働者に支払われるものではないため)
賃金に該当しない(厚生労働省の見解)。ただし、賃金規程で割増賃金の計算の基礎に含める設計はできる(下記)
含まない
実務上は、基本給などだけで最低賃金を満たしているかも確認する(下記)
▶事業主掛金は、労働基準法上の賃金ではありません
厚生労働省は、選択制DCの事業主掛金は、労働基準法上の賃金に該当しないという見解を示しています。既存の給与を原資にした場合も、事業主掛金の部分が残業代や賞与の計算の基礎になる場合も、同じです(社会保障審議会企業年金・個人年金部会 資料)。
そのため、次のように扱います。
-
賃金台帳・給与明細の賃金額には入れません。事業主掛金は、本人に支払う賃金ではないためです。
-
平均賃金(休業手当・解雇予告手当・年次有給休暇を平均賃金で支払う場合など)は、賃金の総額で計算するため、事業主掛金は含まれません。
▶割増賃金の基礎(残業代の単価)
事業主掛金は賃金ではありませんが、賃金規程で、割増賃金の計算の基礎に「手当相当額(事業主掛金として拠出する分を含む)」を用いると定める設計はできます。計算式に使うことと、掛金を賃金として支払うことは、別の話です。
弊所では、選択制DCを導入するときは、賃金規程でこのように定めることをお勧めしています。
【弊所の考え方】
事業主掛金を割増賃金の計算に含められるのは、「賃金規程でそう定めるから」です。掛金そのものが賃金だからではありません。
では、なぜ規程でそう定めるべきなのか。
弊所は、「その手当が、もともと基本給、つまり賃金だった部分だから」と考えています。
-
選択制DCは、基本給を減額して、その分を手当として付け替える仕組みです。付け替えた部分を割増賃金の計算から外すと、制度を導入しただけで残業代の単価が下がります。
-
労働基準法が最低限求めているのは、掛金を除いた賃金だけを基礎にした割増賃金です。含めないこと自体が、ただちに違法になるわけではありません。ただしその場合、導入による労働条件の引下げが残業代にまで及ぶことになり、従業員に説明し、合意を得なければなりません。
-
「もともと賃金だった」という判断は、一人ひとりではなく、制度を導入するときに一度だけ行うものです。そこで定めた賃金規程は、導入後に入社した人にも同じように当てはまります。
含めるか、含めないか。どちらの設計にするかは、導入時に決めて賃金規程に書き、給与計算ソフトの設定と一致させます。
▶最低賃金
最低賃金の対象は、実際に支払われる賃金です。事業主掛金は含めません。前払金は、理屈の上では最低賃金の対象に入ります。
ただ、手当の全額を掛金に回す従業員もいます。その人の給与は、減額後の基本給などだけになります。選択制DCを 導入するときは、手当の全額を掛金に回しても、基本給などだけで最低賃金を満たしているかを確認してください。最低賃金は毎年10月前後に改定されるため、導入時に満たしていても、数年後に下回ることがあります。
3. 給与計算ソフトの設定:3つのポイント
選択制DCの事業主掛金は、給与計算ソフトで次のように設定します。
-
給与明細に表示する(本人が、自分の選んだ掛金の額を確認できるように)
-
割増賃金の単価の計算式に含める(賃金規程で計算の基礎に含めると定めた場合)
-
支給合計には加算しない(賃金台帳の賃金額・所得税の給与・労働保険の賃金に入れないために)
給与計算ソフトによって、この3つを同時に設定できるものと、工夫が必要なものがあります。
避けたい設定は、事業主掛金をいったん支給に入れて、控除欄でマイナスする方法です。
-
事業主掛金が支給合計に入り、社会保険の報酬や労働保険の賃金に含まれてしまいます。
-
給与から差し引いた形になります。事業主掛金を従業員の給与から控除して負担させることは認められていません(厚生労働省「確定拠出年金Q&A」)。
また、ソフトの区分の都合で「現物給与」などの項目を使う場合は、算定基礎届・月額変更届の報酬の集計に拾われていないかを確認してください。社会保険では、現物給与は報酬に含まれるためです。
4. 社会保険の随時改定と算定基礎届
場面
導入したとき(基本給を減額し、拠出を始めたとき)
導入後、本人が掛金と前払金の割合を変えたとき
導入後に入社した人が、入社当初から拠出を始めたとき
随時改定(月額変更届)
対象になります(※)。基本給+前払金が導入前の基本給より下がる=降給にあたるため、2等級以上の差が生じれば、改定後の賃金規程による支給開始月を起算月として月額変更届を出します
対象になりません。本人の選択だけで生じる変動のため
対象になりません
(入社時の資格取得届の報酬月額で決まります)
※ 日本年金機構「疑義照会回答(厚生年金保険 適用)」被保険者報酬8に よる。なお、従業員に選ぶ余地が事実上ないなど、変動が本人の選択だけによるものといえない事情がある場合は、この限りではありません。
算定基礎届では、4〜6月に支払った報酬のうち、前払金は報酬に含め、事業主掛金は含めません。
5. 従業員への説明
選択制DCを導入する会社は、社会保険・雇用保険の給付額にも影響する可能性を含めて、従業員に正確な説明をする必要があります(厚生労働省「確定拠出年金制度について」法令解釈通知)。
厚生労働省の「確定拠出年金Q&A」では、保険料の負担が軽くなる可能性だけでなく、次のことを説明するよう求めています。
-
厚生年金保険・健康保険の標準報酬月額や、雇用保険の基本手当日額が下がることで、それを使って計算する給付が減る可能性があること
-
説明には、具体的な事例を用いることが望ましいこと
給付が減る可能性のある主なものは、次のとおりです。
制度
健康保険
厚生年金保険
雇用保険
給付
傷病手当金、出産手当金
老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金
基本手当(失業給付)、育児休業給付、介護休業給付、
高年齢雇用継続給付
導入時だけでなく、導入後に入社した人にも、入社時に同じ説明をしてください。
6. 規程の整備
規程
賃金規程
確定拠出年金規程・退職金前払規程
企業型年金規約
賞与規程
すること
基本給の減額と、新し い手当(選択の仕組み)を定める。基本給の減額は労働条件の不利益変更にあたるため、労使の合意が前提です。割増賃金の計算式に、手当(事業主掛金を含む)を入れる
手当の選択方法、変更できる時期などを定める。
退職手当に関する定めとして、就業規則の一部として労働基準監督署に届け出ます(労働基準法第89条第3号の2)
地方厚生(支)局長の承認を受ける(運営管理機関と作成)
賞与の一部を掛金に回す仕組みにする場合は、その計算方法
7. 2026年の制度改正
改正
マッチング拠出で、加入者掛金が事業主掛金を超えてはならないという制限の撤廃
企業型DCの拠出限度額の引上げ(月額5.5万円→6.2万円。他の企業年金がある場合はその掛金相当額を控除)
施行日
2026年4月1日
2026年12月1日
給与計算への影響
加入者掛金を増やせるようになります
手当の上限額や、選択できる額の見直しが必要になる場合があります
なお、マッチング拠出の加入者掛金(従業員が自分の給与から出す掛金)は、事業主掛金とは扱いが違います。給与から控除するもので、社会保険の報酬には含まれます。所得税では、年末調整で小規模企業共済等掛金控除の対象になります(所得税法第75条)。
8. 高年齢の従業員が多い職場では
企業型DCには、70歳未満の厚生年金保険の被保険者が加入できます。
ただ、年齢の高い従業員には、次の点を踏まえた説明が欠かせません。
-
受け取れる時期が遅くなることがあります。60歳から老齢給付金を受け取るには、加入していた期間など(通算加入者等期間)が10年以上必要です。期間が短いほど受け取りを始められる年齢が遅くなり、1か月以上10年未満の場合は61歳から65歳の間になります。60歳以上で加入した人は、加入した日から5年を経過した日から受け取れます(確定拠出年金法第33条)。
-
運用できる期間が短く、給付への影響はすぐに出ます。選択制で掛金に回した分は標準報酬月額が下がるため、在職中の厚生年金の加入記録に、そのまま反映されます。傷病手当金や、雇用保険の給付も同じです。
運送業や介護事業のように高年齢の従業員が多い職場では、選択制DCの利点が出にくく、説明の負担も大きくなります。導入するかどうかは、年齢構成を踏まえて慎重に判断することをお勧めします。
9. 導入済みの会社の点検項目
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[ ] 給与明細に、事業主掛金が表示されているか(マイナス表記になっていないか)
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[ ] 賃金規程の割増賃金の計算の基礎と、給与計算ソフトの計算式が一致しているか
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[ ] 事業主掛金が、支給合計・賃金台帳の賃金額・社会保険の報酬・労働保険の賃金総額に入っていないか
-
[ ] 手当の全額を掛金に回した場合でも、基本給などだけで最低賃金を満たしているか(最低賃金の改定のたびに確認)
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[ ] 導入時に、随時改定(月額変更届)を行ったか
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[ ] 賃金規程に、選択制DCを含めた割増賃金の計算式が書かれているか
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[ ] 確定拠出年金規程・退職金前払規程を、労働基準監督署に届け出ているか
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[ ] 導入後に入社した人に、給付への影響を説明しているか
10. よくあるご質問
Q1 選択制DCの事業主掛金は、残業代の計算に含めますか
A1 厚生労働省の見解では、選択制DCの事業主掛金は労働基準法上の賃金に該当しません。ただし、賃金規程で、割増賃金の計算の基礎に手当相当額(事業主掛金として拠出する分を含む)を用いると定めることはできます。弊所では、導入時にそのように定めることをお勧めしています。その手当は、もともと基本給、つまり賃金だった部分だからです。定めないと、制度を導入しただけで、基本給を減額した分だけ残業代の単価が下がります。
Q2 事業主掛金は、給与明細にどう載せればよいですか
A2 給与明細には参考として表示し、賃金規程で定めた場合は割増賃金の単価の計算に含め、支給合計や賃金台帳の賃金額には加算しない形にします。事業主掛金をいったん支給に入れて控除欄でマイナスする方法は、社会保険の報酬に含まれてしまうほか、事業主掛金を給与から控除して従業員に負担させる形になるため、避けてください。
Q3 選択制DCを導入すると、随時改定(月額変更届)の対象になりますか
A3 導入時は対象になります。基本給を減額して拠出を始めると、基本給と前払金の合計が導入前の基本給より下がり、降給にあたるためです。導入後に従業員が掛金と前払金の割合を変えても、本人の選択だけで生じる変動のため、随時改定の対象にはなりません。
Q4 選択制DCで、最低賃金はどう確認すればよいですか
A4 事業主掛金は最低賃金の対象に含めません。前払金は理屈の上では対象に入りますが、手当の全額を掛金に回す従業員もいるため、基本給などだけで最低賃金を満たしているかを確認してください。最低賃金は毎年改定されるため、そのたびに確認が必要です。
Q5 従業員には、何を説明しなければなりませんか
A5 社会保険料の負担が軽くなる可能性だけでなく、標準報酬月額や雇用保険の基本手当日額が下がることで、傷病手当金・出産手当金・厚生年金・失業給付などの給付が減る可能性があることを、具体的な事例を用いて説明します。導入後に入社した人にも、入社時に同じ説明をしてください。
Q6 60歳を過ぎた従業員も、企業型DCに加入できますか
A6 70歳未満で厚生年金保険の被保険者であれば、加入できます(企業型年金規約で加入資格を定めている場合は、それによります)。ただし、60歳以上で加入した人が老齢給付金を受け取れるのは、加入した日から5年を経過した日からです。運用できる期間が短い一方、選択制で掛金に回した分は標準報酬月額が下がり、厚生年金などの給付にすぐ影響します。年齢に応じた説明が必要です。
Q7 マッチング拠出の加入者掛金も、事業主掛金と同じ扱いですか
A7 違います。加入者掛金は、従業員が自分の給与から出す掛金です。給与から控除するもので、社会保険の報酬には含まれます。所得税では、年末調整で小規模企業共済等掛金控除の対象になります。
弊所のお手伝い
弊所では、企業型DCの導入支援(制度設計や運営管理機関の選定など)は行っていません。
すでに企業型DCを導入している会社、導入の提案を受けて検討している会社について、給与計算の設定、賃金規程などの規程、社会保険の手続き(随時改定など)の点検をお手伝いしています。
導入の前に、給与計算と社会保険への影響を確かめておきたい、というご相談も承ります。
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厚生労働省「いわゆる選択制DC・選択制DBについて」(第29回社会保障審議会企業年金・個人年金部会 資料1、2023年11月13日)(選択制DC・DBの事業主掛金は、残業代や賞与の算出基礎額になる場合も含め、労働基準法上の賃金に該当しない)
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確定拠出年金法第4条(承認の基準等)、第9条(企業型年金加入者)、第19条(事業主掛金及び企業型年金加入者掛金)、第33条(老齢給付金の支給要件:通算加入者等期間、60歳以上で加入した者は加入から5年経過後)
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「確定拠出年金制度について」(平成13年8月21日年発第213号、厚生労働省年金局長通知)第1の2(5)(事業主掛金に関する事項)(労使合意により給与等を減額して事業主掛金とし、従業員が選択する仕組みでは、社会保険・雇用保険等の給付額への影響を含めて正確な説明を行う必要)
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厚生労働省「確定拠出年金Q&A(令和8年4月1日施行)」(給与・賞与を減額して掛金とする場合の説明事項、具体的事例を用いた説明が望ましいこと、事業主掛金を給与から控除して加入者に負担させることは認められないこと)
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所得税法施行令第64条第1項第4号(企業型DCの事業主掛金は給与所得の収入金額に含まれない)、所得税法第75条(小規模企業共済等掛金控除:企業型年金加入者掛金)
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日本年金機構「疑義照会回答(厚生年金保険 適用)」被保険者報酬8(確定拠出年金に係る報酬月額変更について)、「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」(前払いされる退職手当は報酬等に該当)
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労働局「労働保険料の算定基礎となる賃金早見表」(いわゆる前払い退職金は賃金)
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労働基準法第11条(賃金の定義)、第12条(平均賃金)、第37条(割増賃金)、第89条第3号の2(退職手当の定め)、雇用保険法第4条第4項(賃金の定義)
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厚生労働省「2025年の制度改正」(マッチング拠出の制限撤廃:2026年4月1日、拠出限度額の引上げ:2026年12月1日予定)
法令の確認日:2026年9月27日
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