実務レター Vol.2|36協定の監督指導・社宅の現物給与・法定福利費と支援金・裁量労働制

更新日:19 分前

「こんなことが話し合われています、準備しておきましょう」という視点で、審議会・行政の動きを中心にお届けします。
■労務管理:36協定、監督署の指導方針が「時間数」から「中身」へ
厚生労働省は8月19日、時間外労働に関する相談・支援と監督指導の運用を見直すと発表し、2026年9月1日から全国の労働基準監督署で適用されています。これまで、特別条項付き36協定を締結していても「月45時間以内に収めるように」という一律の指導が行われてきましたが、今後はこの時間数だけに着目した指導を見直し、36協定の中で労使が定めた「健康及び福祉を確保するための措置」が実際に実施されているかを重点的に確認する形に変わります。法律上の上限(原則月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間・複数月平均80時間等)そのものが変わったわけではありません。
ここで見落とされがちなのは、「指導が緩くなった」のではなく「見られる場所が変わった」という点です。36協定の特別条項には、医師の面接指導、代償休日、深夜業回数の制限、健康診断の実施など、健康確保措置を選んで記載する欄がありますが、実務上は届出のために形式的に選択され、実際に運用されているかまでは確認されていないケースが少なくありません。今回の見直しは、この「書いたことをやっているか」を直接の点検対象にするものです。時間数の帳尻合わせよりも、自社が36協定に書いた健康確保措置を、実際に運用できているかの棚卸しが、これからの実務対応の中心になりそうです。
(1次資料:時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75454.html )
■労務管理②:社宅・寮の「現物給与」、10月1日から計算方法が変わります
社宅や寮を貸与している場合、その経済的利益は「現物給与」として社会保険の報酬に算入されます。この価額の算出方法が、令和8年10月1日から変わります。これまでは居住用の室の畳数(1畳あたり)で計算していましたが、10月からは住宅の総面積(1㎡あたり)で計算します。玄関・台所・トイレ・浴室・廊下といった、これまで対象外だった部分も算入されることになります(別棟の物置・車庫は除きます。アパート・マンションなどの共同住宅は、共用の廊下・階段を除いた専用部分の面積です)。単価も改定され、たとえば千葉県は1,760円/畳から830円/㎡、東京都は2,830円/畳から1,330円/㎡となります。
実務上の急所は、価額そのものよりも、この改正が「固定的賃金の変動」に該当すると明示された点にあります。社宅を貸与している被保険者については、新しい価額が反映された給与を初めて支払った月(当月払いなら10月、翌月払いなら11月)を起算月とする随時改定(月額変更届)の判定が必要になります。「価額表が差し替わるだけ」と受け止めていると、届出漏れにつながります。
まず必要になるのは、各社宅の総床面積の把握です。従来は居住用の室の畳数しか記録していないケースが多く、その数字のままでは10月以降の計算ができません。間取り図や賃貸借契約書で面積を確認しておくと、10月以降の給与計算が滞りません。なお、複数の人が同じ寮に住む場合の面積の数え方などは、年金事務所の窓口でも回答が分かれている状況です。判断に迷う場合は、根拠を確かめたうえで進めることをおすすめします。
食事の現物給与価額はひと足早く本年4月1日に改定済みです。あわせて所得税における食事補助の非課税限度額も、同日から月3,500円が7,500円に引き上げられています(1984年以来42年ぶりの改定)。
(1次資料:全国現物給与価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額)|日本年金機構 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150511.html )
■建設業:見積りの「法定福利費」に、子ども・子育て支援金が加わりました
改正建設業法により2025年12月に全面施行された「労務費に関する基準」(いわゆる標準労務費)は、元請・下請を問わず、労務費を著しく下回る見積りや契約を禁じ、適正な労務費が技能者の賃金まで行き渡ることをねらいとしています。国土交通省は2026年6月29日にこの基準の運用方針を改正し、本年度から医療保険料とあわせて徴収が始まった「子ども・子育て支援金」を、見積りに計上する「法定福利費」に含めると整理しました。
見積書の法定福利費は、社会保険料の事業主負担分をもとに計算するのが一般的ですが、これまでの計算式のままでは支援金の分が抜け落ちます。見積りを出す側にとっては、支援金の分も含めて請求できる根拠が明確になったということです。自社の見積書の法定福利費の計算方法を、一度見直しておくとよいでしょう。
また国交省は2026年度、この基準に沿った労務費が請負金額で確保され、実際に賃金として支払われているかを把握する調査を新たに始めると報じられています。「見積りに書いた労務費が、賃金に届いているか」が見られる段階に入りつつあります。
(1次資料:「労務費に関する基準」の運用方針を改正|労務費に関する基準ポータルサイト(国土交通省) https://roumuhi.mlit.go.jp/news/detail/13 )
■IT事業:裁量労働制、7年ぶりの国の実態調査が終わりました
システムエンジニアが担う「情報処理システムの分析又は設計の業務」は、専門業務型裁量労働制の対象業務の一つです。政府は裁量労働制の見直しの検討を進めており、労働政策審議会労働条件分科会で決まった実態調査が、労働政策研究・研修機構により本年7〜8月に行われました。約7年ぶりの本格的な調査で、2024年4月に施行された制度改正が現場に定着しているかを把握することが目的とされています。結果は、今後の審議会の議論の土台になる見込みです。
見直しの議論では、経済界から対象業務の拡大を求める声がある一方、労働者側は拡充に慎重で、方向性はまだ定まっていません。ただ、どちらに進むとしても、出発点は「2024年4月の改正が根づいているか」です。専門業務型でも、2024年4月からは本人の同意を得ること、同意しなかったことを理由に不利益に扱わないこと、同意の撤回の手続きを定めることが必要になっています。SEに裁量労働制を適用している場合は、同意書の取得・保存と労使協定の記載が改正後の内容になっているかを、今のうちに確かめておくと安心です。
(1次資料:労働政策審議会(労働条件分科会) https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-rousei_126969.html /システムエンジニアについて専門業務型裁量労働制を採用したい場合|厚生労働省 https://www.startup-roudou.mhlw.go.jp/qa/zigyonushi/roudoujikan/q9.html )
審議会の議論は、決まってから対応するのでは遅いことがあります。早い段階から流れをお伝えしていきますので、ご参考にしていただければと思います。
※この記事は、顧問先・関与先の皆さまにお送りしている「実務レター」Vol.2(2026年9月25日配信)を掲載したものです。内容は配信時点の情報です。


コメント