top of page

実務レター Vol.4|労働条件の明示違反・治療と仕事の両立支援・CCUSレベル別年収・取適法

執筆者の写真: 今鶴 孝
今鶴 孝
3 日前
読了時間: 8分

「こんなことが話し合われています、準備しておきましょう」という視点でお届けしている実務レターです。今号は、すでに始まっている制度の中から、実務で見落とされやすい点を中心にお届けします。



■労務管理:労働条件の明示違反、労働時間の違反と並ぶ多さに

(対象:すべての会社/やること:雇用契約書のひな形の点検)


厚生労働省がまとめた令和7年の監督業務の実施状況(速報値)によると、労働基準監督署が定期監督等を行った145,797事業場のうち、69.3%にあたる101,038事業場で何らかの法違反がありました。条文別に見ると、労働条件の明示(労働基準法第15条)の違反が19,049件で、労働時間(同第32条)の違反19,252件とほぼ同じ数にのぼっています。

背景の一つとして考えられるのが、令和6年4月のルールの変更です。それ以降、労働契約を結ぶとき・更新するときには、次の事項も書面で明示することが必要になりました。

  • すべての労働者:就業の場所と従事する業務の「変更の範囲」。雇い入れた直後の場所・業務だけでなく、将来の配置転換などで変わりうる範囲です(例:「会社の定める事業所」「変更なし」など)

  • 有期契約の労働者:更新上限の有無とその内容(通算の契約期間や更新回数の上限)

  • 無期転換を申し込める契約に更新するとき:無期転換を申し込めることと、転換した後の労働条件(「無期転換」は、有期契約が更新されて通算5年を超えると、本人の申込みで期間の定めのない契約に変わるルールです)

見落とされやすいのは、「雇い入れのとき」だけでなく「契約を更新するたび」に必要だという点です。新しいひな形を用意しても、更新の場面では古い様式のまま同じ内容で結び直してしまい、追加の事項が抜けている例が少なくありません。定年後の再雇用も、新しく契約を結ぶ場面にあたります。

まず取り組めるのは、いま使っている雇用契約書・労働条件通知書のひな形と、直近に更新した契約書を1枚ずつ見比べることです。「変更の範囲」の欄、更新上限の欄、無期転換の欄があるかどうかを確かめるだけでも、多くの抜けは見つかります。書き方に迷う欄があれば、弊所でも一緒に確認いたします。

(1次資料:令和7年監督業務実施状況(速報値)|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/kantoku01/ /令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html )



■職場のメンタルヘルス:治療と仕事の両立支援、令和8年4月から事業主の努力義務に

(対象:すべての会社/やること:相談の窓口と、休職から戻るときの段取りを決めておく)


改正された労働施策総合推進法により、令和8年4月1日から、病気の治療を受けながら働く人への両立支援が、事業主の努力義務になりました。努力義務なので、取り組まないことに罰則はありませんが、国が「こう進めるのが望ましい」という道筋を、厚生労働大臣の告示として「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号)にまとめています。対象はがんや脳卒中などに限らず、反復・継続して治療が必要で、働き続けるうえで配慮が必要な病気全般で、心の病気も含まれます。雇用形態にかかわらず、すべての労働者が対象です。

指針で目を引くのは、「会社が一方的に決めない」ことを繰り返し求めている点です。

  • 支援は、本人からの申出を出発点とする

  • 病気になったことをもって安易に就業を禁止せず、主治医や産業医などの意見を聴いて、配置転換や時間の短縮などで働く機会を失わせないようにする

  • 本人の希望を聴き、十分な話し合いを通じて了解を得るよう努める

もう一つは、職場と医療機関との連携です。指針は、連携する相手として、主治医だけでなく、病院の医療ソーシャルワーカーや看護師、社会保険労務士などの名前を挙げています。入院中の職員について、病院の連携室から「復職に向けて話し合いたい」と声をかけられることがあります。出向く義務まではありませんが、本人の状態と会社が求める仕事の内容をすり合わせる機会になります。会社が話し合いに応じていたことは、のちに働き方をめぐって行き違いが生じたときにも、会社の取組みを示す材料になります。

いま休職中の人がいない会社でも、備えとしてできることがあります。

  • 本人が病気のことを相談できる窓口(社長、総務担当など)を決めて、社内に伝えておく

  • 休職から戻るときに、短い時間や日数から始める「試し出勤」を使うかどうか、使う場合はその間の賃金や労働時間の扱いを書面で決めておく

(1次資料:治療と就業の両立支援指針(令和8年厚生労働省告示第28号)|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001666578.pdf )



■建設業:CCUSレベル別年収、令和8年4月改定版が公表

(対象:建設業の会社/やること:自社の賃金と、技能者のレベルの目安を並べてみる)


国土交通省は、建設キャリアアップシステム(CCUS)の能力評価のレベルに応じた年収の目安(CCUSレベル別年収)の令和8年4月改定版を公表しています。公共工事設計労務単価が賃金として支払われた場合の年収を、職種・レベル・地域ブロックごとに試算したものです。

レベルは、CCUSの能力評価によるものです。おおよその目安として、国交省の試算では、レベル1は経験5年未満、レベル2は5年以上10年未満、レベル3は10年以上または一級技能士、レベル4は登録基幹技能者に相当するものとして扱われています。

全分野の値は、次のとおりです(標準値〜目標値)。

  • 全国:レベル1 395万〜535万円以上/レベル2 444万〜599万円以上/レベル3 472万〜664万円以上/レベル4 572万〜754万円以上

  • 関東ブロック:レベル1 418万〜567万円以上/レベル2 470万〜635万円以上/レベル3 500万〜704万円以上/レベル4 606万〜800万円以上

「目標値」は平均以上、「標準値」は下位15%程度の水準にあたります。国交省は、目標値以上の支払いを推奨するとともに、標準値を下回る支払いの事業者については、請負契約で労務費のダンピング(著しく低い労務費での請負)のおそれがないかを重点的に確認するとしています。金額そのものに法的な拘束力はありませんが、「技能者の経験に応じた処遇」をはかる物差しとして、見積りや元請との交渉の場面で参照される場面が増えていくと考えられます。

技能者のCCUSの登録や能力評価がまだでも、経験年数や資格から、おおよそのレベルの見当はつけられます。技能者ごとに年収とレベルの目安を並べてみると、どの層が標準値に届いていないかが見えてきます。賃金テーブルや等級の見直しを考える際の、一つの出発点になります。

(1次資料:CCUSレベル別年収|労務費に関する基準ポータルサイト(国土交通省) https://roumuhi.mlit.go.jp/related-measures/ccus )



■IT事業:取適法(旧下請法)、価格協議に応じない一方的な代金決定が禁止に

(対象:開発を受託・委託するIT企業/やること:価格協議の進め方と記録の残し方を決める)


下請法は改正され、令和8年1月1日から「中小受託取引適正化法」(取適法)として施行されています。ソフトウェアやデザインなどの作成を他社に任せる取引(情報成果物作成委託)も、引き続き対象です。用語は「親事業者」が「委託事業者」に、「下請事業者」が「中小受託事業者」に改められ、対象になるかどうかの基準には、資本金に加えて従業員数の基準が設けられました。自社の取引が対象にあたるかは、取引の内容と双方の資本金・従業員数で決まりますので、公正取引委員会の特設サイトで確かめられます。

大きく変わったのは、受託側から価格の協議を求められたのに応じず、必要な説明もしないまま、委託側が一方的に代金を決めることが禁止された点です。協議をはっきり断る場合だけでなく、求めを無視したり、先延ばしを繰り返したりする場合も違反になりえます。

人件費が上がり続けるなかで、受託開発の単価が据え置かれたままでは、エンジニアの賃上げの原資が生まれません。受託側にとっては、労務費の上昇を理由に価格の協議を求めやすくなったということです。協議を求めるときは、賃金の上昇幅や最低賃金の改定など根拠を示し、やり取りを記録に残しておくと、話が進めやすくなります。委託する側に立つ場合は、協議の求めに応じる社内の手順を整えておく必要があります。賃上げの幅や、根拠として示す賃金の資料づくりについては、弊所でもご相談に応じます。

(1次資料:取適法特設サイト|公正取引委員会 https://www.jftc.go.jp/toriteki_2025/ )



■事務所からのお知らせ:AIの利用に関する方針を掲載しました


弊所では、書類の下書き、法令の調べもの、データの集計・照合、期限の管理などの補助として、生成AIを使っています。その取扱いを「AIの利用に関する方針」としてまとめ、ホームページに掲載しました(令和8年10月1日制定)。

  • 社労士の確認なしに、AIの出力をそのまま提出・送信することはしません

  • マイナンバーは入力しません。お預かりした情報を扱う場合も、氏名は番号や略称に置き換えます

  • 入力した情報が学習に使われない設定で利用します

  • 数値は一次資料で確かめます

顧問契約は、契約の更新にあわせて、AIの利用に関する条項を入れたものに切り替えていきます。切り替えの際は、あらためてご案内いたします。

(AIの利用に関する方針 https://www.sr-jissen.com/ai-policy )



審議会の議論や制度の変化は、決まってから対応するのでは遅いことがあります。早い段階から流れをお伝えしていきますので、ご参考にしていただければと思います。


※この記事は、顧問先・関与先の皆さまにお送りしている「実務レター」Vol.4(2026年10月23日配信)を掲載したものです。内容は配信時点の情報です。


コメント


bottom of page