実務レター Vol.3|カスハラ対策の義務化・労災請求の時効5年・シフト制の有給・適正原価

更新日:54 分前

「こんなことが話し合われています、準備しておきましょう」という視点で、審議会・行政の動きを中心にお届けします。
■労務管理:カスタマーハラスメント対策、10月1日から事業主の義務に
令和8年10月1日から、改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント(カスハラ)の防止のための措置が、すべての事業主の義務になりました。企業規模による猶予はありません。具体的な内容は、2月に公布された厚生労働省の指針に定められています。
カスハラとは、
①顧客等の言動であって、
②業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるもの、
の3つをすべて満たすものです。「顧客等」には、サービスの利用者とその家族、取引先の担当者、施設の近隣住民なども含まれます。苦情のすべてがカスハラに当たるわけではありません。
事業主が講じなければならない措置は、パワハラ対策と同じく、方針の明確化と周知、相談窓口の設置、事後の迅速・適切な対応、プライバシーの保護と不利益取扱いの禁止です。カスハラに特有なのは、次の2点です。
あらかじめ定めた対処の内容(その場で管理職の指示を仰ぐ、できる限り一人で対応させない、犯罪に当たり得る言動は警察へ通報する、など)を労働者に周知すること
特に悪質なカスハラへの対処の方針を決め、それを実行できる体制を整えておくこと
ここで注目したいのは、指針が求めているのが「従業員が上手にかわす技術」ではなく、「一人で抱えさせない組織の段取り」だという点です。介護の現場では利用者やご家族から、運送の現場では荷主や納品先から、厳しい言動を受けることがあります。これまで現場の我慢や個人の対応力に任されてきた部分を、会社の手順として書き出せているか。就業規則やハラスメント防止規程に、カスハラの定義と対処の流れを加えておくことが、まず取り組める一歩です。
(1次資料:職場におけるハラスメントの防止のために|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html /リーフレット(詳細版) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662580.pdf )
■職場のメンタルヘルス:精神疾患の労災請求、時効が2年から5年に(令和9年4月から)
令和8年7月に公布された労災保険法等の改正法(令和8年法律第60号)により、令和9年4月1日から、労災保険の給付の請求期限が一部延びます。脳・心臓疾患や精神疾患など、労災に当たるかどうかの判断が難しい疾病(具体的には政令で定められます)について、療養補償給付などの請求の時効が、2年から5年になります。労働基準法の災害補償の時効も同じく改正されます。
精神疾患の労災は、発病からしばらくたって、退職した後に請求されることも少なくありません。時効が5年になると、会社が「数年前の職場の出来事」について、労働基準監督署の調査に応じる場面が増えることが考えられます。そのとき判断の材料になるのは、当時の勤怠の記録、時間外労働の実績、ハラスメントの相談記録、面談の記録などです。
労働基準法では、出勤簿や賃金台帳などの保存期間は5年(当分の間は3年)とされています。3年で廃棄する運用をしている場合は、請求できる期間との間にずれが生じます。勤怠や相談の記録を5年は残しておくよう、保存のルールを見直しておくと安心です。
なお、この改正では、労働者である妻が亡くなった場合の夫の遺族補償年金について年齢の要件がなくなるほか、一人親方などが加入する特別加入の「特別加入団体」が法律に位置づけられます。細かな取扱いは、これから政令や省令で定められます。
(1次資料:労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74735.html )
■介護福祉事業:シフト制の年次有給休暇、付与日数は「前年1年間の実績」で
登録ヘルパーのように、労働日をシフトで決めていて、契約上の所定労働日数を定めにくい働き方があります。こうした方の年次有給休暇の付与日数を、どの数字をもとに決めるか。これまでは明確な基準がなく、基準日の直前の数か月の出勤日数から1年分を見積もっている事業所も少なくありませんでした。
厚生労働省は、令和8年6月19日に「シフト制」で働く人の雇用管理の留意事項を改正し、この点を明確にしました。所定労働日数を算出しがたい場合は、次の日数を「1年間の所定労働日数」とみなして、付与日数を決めてよいとしています。10月には、労働局・労働基準監督署の名で解説のリーフレットも出ています。
- 入社6か月後の付与:入社から6か月間の労働日数の実績を2倍した日数
- 入社1年6か月後以降の付与:前年1年間の労働日数の実績
直前の数か月だけで見積もると、繁忙期や閑散期の偏りがそのまま付与日数に響きます。1年間の実績を使えば、季節の波がならされます。その代わり、基準日ごとに、一人ひとりの前年1年間の出勤日数を集計できるようにしておく必要があります。勤怠システムや給与ソフトで、個人別・期間指定の出勤日数を出せるかを確かめておくとよいでしょう。
あわせて押さえておきたい点が2つあります。1つは、契約書に「週3日程度」のような目安の日数を書いている場合です。目安で計算したほうが付与日数が多くなるときは目安を使えますが、実績で計算したほうが多いときは、目安を理由に減らすことはできません。もう1つは、基準日の前に、会社の都合で一方的に所定労働日数を増やしたり減らしたりすることは認められない、という点です。
付与日数や残日数を、給与明細やシフト希望の申請用紙に書いて本人に知らせる、といった取組例もリーフレットで紹介されています。年休の請求をためらわせない仕組みは、人手の確保が難しい介護の職場では、定着のための手立てにもなります。
(1次資料:いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項(令和8年6月19日改正)|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001713615.pdf /「シフト制」で働く場合の年次有給休暇について(リーフレット)|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001756191.pdf )
■トラック運送業:適正原価の検討会、第3回は関係団体のヒアリング
トラック運送の「適正原価」を定めるための国土交通省の有識者検討会は、10月1日に第3回が開かれました。今回は、全国通運連盟、交通労連(運輸の労働組合)、経団連、全国中小企業団体中央会、日本新聞協会の5団体からの意見聴取が中心でした。地域や車種の区分、ドライバーへの賃金の支払いといった個別の論点は、引き続き議論される予定です。
労務の立場から目を引いたのは、交通労連が示したドライバーの賃金の実態です。
給与に占める変動給(業績給・時間外手当)の割合は、大型・一般貸切で約52%、中小型・一般貸切で約50%。全産業の平均(所定外賃金の割合)は約9%です
1時間あたりの賃金は、全産業の男性平均が約2,330円に対し、ドライバーは約1,570〜1,920円
労働組合は、貸切バスの基準運賃で人件費の水準が「全産業平均の給与額」に改められた例を挙げ、トラックの適正原価でも同じ考え方を求めています
適正原価の人件費は「全産業の労働者の平均賃金を踏まえたもの」とされる見込みです。ただ、運賃の中に人件費が確保されても、それがドライバーの給与のどの部分に乗るのかは、各社の賃金制度しだいです。給与の半分が走行距離や売上に連動する変動給であれば、運賃が上がっても、仕事量が減った月には手取りが下がる、ということが起こり得ます。
2028年までには、運転者の技能・能力の評価に基づく賃金の支払いも義務づけられます。適正原価の議論がまとまるのを待つ間に、自社の給与のうち固定給と変動給の割合がどうなっているか、技能や経験がどこに反映されているかを一度見ておくと、制度が固まったときに慌てずに済みます。
(1次資料:第3回適正原価の設定に向けた有識者検討会|国土交通省 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000023.html )
審議会の議論は、決まってから対応するのでは遅いことがあります。早い段階から流れをお伝えしていきますので、ご参考にしていただければと思います。
※この記事は、顧問先・関与先の皆さまにお送りしている「実務レター」Vol.3(2026年10月10日配信)を掲載したものです。内容は配信時点の情報です。


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